従業員1人でも社会保険への加入は必要!個人事業主も知っておくべき基礎知識

個人事業主として、事業が好調になり、新たに従業員を雇うことを考えたとき「個人事業主でも社会保険に加入することができるのか?」というような疑問を抱くことはないでしょうか?

「どんな種類の社会保険があるのか」

「法人の会社と同様の社会保険に加入することができるのか」

これらの疑問は知識がなければ、すぐには判断がつきません。

この記事では、個人事業主にも関係する従業員の社会保険について、種類や加入の要件、注意事項などをひとつずつ解説しています。

一見複雑そうに思える社会保険を、ポイントを整理しながら学ぶことができますので悩んでいる方は是非ご覧下さい。

個人事業主でも社会保険に加入できる

結論から言うと、個人事業主であっても加入の要件を満たし、手続きをすることで法人と同様の社会保険に加入することができます。

反対に、要件を満たした場合は、加入しなければならない強制的なものとも言えるでしょう。

しかし、ひとことで「社会保険」と言っても、それはすべての公的な保険を示す、非常に大きな意味ももっています。

個人事業主にとって関係のある社会保険は大きく分けると2つです。

  • 労災保険と雇用保険の2つを合わせた「労働保険」
  • 健康保険や厚生年金保険の2つを合わせた、狭義の意味での「社会保険」

個人事業主でも加入できる社会保険について、ひとつずつ確認していきましょう。

従業員を1人でも雇うと加入が義務となる社会保険

労働者を雇い入れた際には個人事業主であっても、加入要件に該当した場合、労災保険と雇用保険に加入しなければなりません。

これは事業主や労働者の意思に関わらず、必ず加入しなければならない保険です。

この2つは合わせて労働保険と呼ばれ、一括りにされることが多いですが、それぞれ保険の目的や加入要件が異なります。

労災保険

労災保険とは事業に雇われている労働者、あるいはその家族に対して行われる保険給付です。仕事が原因で怪我をしたときや病気になってしまったときに、病院で診察を受けた際にかかった医療費や、仕事を休んでしまった期間の賃金の保障をしてくれます。

この労災保険は、労働者を雇入れた際はアルバイトやパートといった雇用形態や、就業時間数に関わらず、事業主は必ず加入しなければならないものです。

しかし、労災保険に加入するかどうかを任意と認められている事業があります。

それは次の3つの要件をすべて満たした場合です。

  1. 個人経営であること
  2. 農業(危険または有害な作業を行う事業を除く)、林業、畜産、養蚕、水産の事業であること
  3. 常時使用する労働者が5人未満であること

※林業や水産の事業は別途規定があります

すべての要件を満たす場合なので、法人の場合や労働者数が5人以上の場合は強制加入となります。

また、加入が任意であったとしても、労働者の過半数が労災保険への加入を希望した場合は、事業主は労災保険への加入申請をしなければなりません。

雇用保険

雇用保険とは労働者の雇用を維持するための保険です。

労働者が失業した際、次の就職先を探す間に失業等給付を行ったり、育児や介護などが原因で仕事を辞めたりすることがないように援助をする保険です。

事業主にとっても雇用保険料を支払うことで、雇用保険の適用事業所となり、要件を満たした際には助成金を貰うことができます。

コロナ禍で話題になった「雇用調整助成金」も、この雇用保険から支払われているものです。

こちらも労災保険同様、事業主や労働者の意思に関わらず、加入要件を満たした場合は強制加入となりますが、加入が任意と認められる事業もあります。

それは次の3つの要件を全て満たした場合です。

  1. 個人経営であること
  2. 農林、畜産、養蚕、水産の事業であること
  3. 常時使用する労働者が5人未満であること

また加入が任意であったとしても、労働者の2分の1以上が雇用保険への加入を希望した場合、事業主は加入の申請をしなければなりません。この点は労災保険と同様ですが、雇用保険の場合は特別に注意しましょう。

なぜなら、労働者の2分の1以上が雇用保険への加入を希望しているのにも関わらず、事業主が加入申請をしなかった場合に罰則があるからです。(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)

労働者が雇用保険への加入を希望したことを理由に、その労働者に解雇などの不利益な取扱いを行うことも、同様に罰則の対象となります。

しかし、適用事業であっても雇用する労働者が次のような場合は、労働者自身が雇用保険の資格取得の要件を満たさないため、雇用保険へ加入する必要はありません。

  1. 労働者の1週間あたりの労働時間数が20時間未満の場合
  2. 31日以上の雇用が見込まれない、短期労働者の場合
  3. 昼間学生※卒業見込んで採用されているものを除く

このほかにも季節的に一定期間のみ雇用される方など、被保険者とならない場合があります。

従業員が1人でも任意に加入できる社会保険

社会保険とは狭義の意味では「健康保険」と「厚生年金保険」のことを指します。

こちらも要件を満たした場合は加入義務がありますが、要件に該当しない場合は任意加入となり、申請することで加入することが可能です。

健康保険

健康保険とは労働者やその扶養家族について、業務災害以外の怪我や病気、あるいは出産や死亡時などに医療サービス等が受けられる仕組みです。

健康保険証を医療機関に持参することで、実際の医療費負担が3割になっていることはよく知られており、世間的に1番馴染みの深い社会保険と言えるでしょう。

法人の事業は役員1人の場合でも強制加入となりますが、個人事業の場合は次の要件を両方満たした場合に、強制加入となります。

  1. 適用業種である
  2. 常時5人以上の労働者を使用している

「適用業種」はほとんどの事業が該当するので、自らの事業が適用業種かどうかは非適用業種一覧を確認することが、1番わかりやすいです。

【非適用業種一覧】

  • ・農業、牧畜業、水産養殖業、漁業
  • ・サービス業(ホテル、旅館、理容、浴場、その他娯楽、スポーツ、保養施設などのレジャー産業)
  • ・宗教(神社、寺院、教会)

非適用業種でなければ、たとえ個人事業主であっても、従業員の数によっては「健康保険に強制加入である」ということになります。整理すると、次の2つのパターンが健康保険の任意加入が認められている事業です。

  1. 適用事業ではない事業の個人事業主
  2. 適用事業の個人事業主だが、常時使用労働者数が5人未満

もし、健康保険への加入を希望する場合は、労働者の2分の1以上の同意を得る必要があります。

また、従業員の2分の1以上が健康保険への加入を希望した場合、労災保険や雇用保険と違い、事業主に加入申請の義務は生じません。

厚生年金保険

厚生年金保険とは、会社員や公務員を対象としている年金制度です。

20歳になった日本居住者が強制的に加入することになる国民年金は、将来受け取れる年金額が決まった金額ですが、厚生年金は働いて得た給料に応じて、支払う保険料や貰える給付の金額が変わります。

年金は歳を取ってから貰う老齢年金のイメージが強いですが、不慮の事故で障害が残ってしまったときに貰える障害厚生年金や、一家の生計を支えていた人が亡くなったときに貰える遺族厚生年金も、同じ厚生年金からの給付です。

厚生年金保険へ強制加入となるかどうかの適用の基準は、健康保険とほぼ同じとなります。基本的に健康保険の適用となる場合は、厚生年金保険もセットだと考えましょう。

唯一、厚生年金が健康保険と異なるのは「船舶」が適用事業所に含まれる点です。

個人事業主が社会保険に加するときの注意点

では、加入すべき社会保険がわかり、いざ加入する際にはどんなことに気をつけるべきでしょうか?

社会保険に加入する際は以下のような注意点があります。

保険料の負担が個人事業主にもかかる

それぞれの保険料は被保険者となる労働者だけではなく、事業主にも保険料負担の義務が生じます。それぞれ納付のタイミングや計算方法、手続きの届出を行う機関が異なりますので、ひとつずつ整理しながら確認すると良いでしょう。

負担した社会保険料は、個人事業主自身のものを除けば経費にすることができます。

しかし、ひとつ注意が必要です。

基本的には保険料は労使折半になりますが、前述した4つの保険の中で唯一、労災保険が事業主のみに保険料負担の義務が生じます。

同じ労働保険でも雇用保険と違い、労働者の保険料負担は生じません。

従業員から徴収する保険料は給料から天引きできますが「労災保険」を天引きすることはできませんので、この違いについては十分気を付けましょう。

個人事業主自身は労災保険・雇用保険に入れない

労災保険と雇用保険、いわゆる労働保険は労働者のための保険です。

ですので、個人事業主自身は原則被保険者としてそれらの保険に加入することができません。

また、同居の親族のみで事業を営んでいる場合、その親族は法律上では労働者として扱われないことになっています。

そのため個人事業主以外にも、その親族も労働保険や社会保険に加入できないので気を付けましょう。

しかし、同居の親族以外の労働者がいて、その親族たちも他の労働者と同様の使用従属関係の下で働いて賃金を得ている場合などは、被保険者となることができます。

社会保険への加入義務を守らないときのリスク

社会保険は加入を任意と認められていることもありますが、多くの場合は強制加入です。

当然「知らなかった」では済まされず、加入の手続きを怠ったり、本来納めるべき保険料を期限内に納めなければ、保険料に延滞金や追徴金が課せられたり、刑事罰に及ぶこともあります。

そして、加入しなければならない保険はいざというときに必要なものばかりで、従業員の方だけではなくその家族にも影響が及ぶこともあり、責任は広く、重いものです。

事業主が必要な手続きを怠ることで、本来受けられるはずの保険給付が適切に受けられなかったり、時間がかかってしまうことになったりすると、事業主としての信用を失いかねません。

せっかく雇入れた労働者が離れてしまったり、刑事罰となったりすることで取引先からの信用を落とす可能性もありますので、十分注意しましょう。

従業員を雇うなら個人事業主にも労務の知識が必要

労働者を雇う際にどのような保険があるかどうか、それが強制適用なのかどうかは、保険の種類や事業内容によって異なります。

それぞれ種類が多く個々に要件もあるため、難しく感じると思いますが、事業主としてどんな保険があるのかを認識することが必要です。

しかし、いざ実務の場面となると自分自身の事業内容がその保険に適用するか、実際の判断や手続き、保険料の計算は難しく感じることもあるでしょう。その際は社労士などの専門家に相談し、対応するのがひとつの手段です。

しかし専門家に頼るだけではなく、事業主自身が知識を得て理解を深めることで、従業員からの質問やいざというときに対応できるようになります。従業員の社会保険は、事業主として非常に大事な労務知識ですのでしっかりと学んでいきましょう。