個人事業主のハラスメント被害と相談先について!取引先の負う責任も解説

2022年4月1日から、すべての企業に対して、雇用する従業員への「ハラスメント防止措置」が義務付けられました。しかし、直接の雇用関係がない「個人事業主と取引先企業」という関係にもハラスメントの問題はあります。

直接雇用関係はない間柄でもパワハラとセクハラが認められた裁判例が出てきており、企業側には広くハラスメント発生を防ぐ姿勢が求められているのです。

この記事では、個人事業主として働く人が受けるハラスメントの実態と問題点、解決のための相談窓口などを紹介しています。これから個人事業主として、働いていく中で起こりうるトラブルですので、必ず確認をしておきましょう。

個人事業主もハラスメントの被害を受けることがある

パワハラやセクハラなどのハラスメントは、職場での上司と部下という関係性で起こるイメージが強くあるかもしれませんが「個人事業主(あるいはフリーランス)」と「取引先企業」という間でも問題になります。

取引先との関係が生活の収入に直結することから、そのことにつけ込まれて被害を受けてしまうことがあるのです。

例えば、発注者である取引先企業がその優位的な立場を利用して、無理な条件を押し付けたり、精神的に追い詰めたりするパワハラや、性的な関係を強要するセクハラなどがあります。

ハラスメント被害の実情

令和4年度の内閣府「フリーランス実態調査」では、「最も収入が多い取引先から何かしらのハラスメントにあった」と答えたフリーランスは約10%いました。

(出典元:https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/freelance/dai1/siryou9.pdf

この調査ではハラスメント加害の対象を「契約のある取引先のうち最も収入の多いもの」と限定的にしているため、実際にハラスメント被害に合うフリーランスは、さらに数が多くなると推測することができます。

ハラスメントの種類はパワハラが最も多く、その次はセクハラです。これは通常の雇用関係下で行われるハラスメントに関する調査でも、変わらない順位と比率でした。

特徴的なのは、これらの被害を受けても「特に何もせず、そのまま取引を続行した」という回答が最も多かったことです。

その理由として「今後の取引が切られる又は減らされるから」「報酬が貰えなくなるから」という回答が多く、この点からも、フリーランスが発注先に対して強く抗議できない立場にあるといえるでしょう。

実際にあった裁判例

令和4年5月、個人事業主と取引先企業との間で起きたトラブルに関する裁判で、取引先企業のパワハラとセクハラを認めた判例が出ました。

この事件は、美容ライターとして仕事を受注していた個人事業主が、発注元のエステティックサロンから依頼を受けて業務を行ったのにも関わらず、数回のセクハラを受け、結局報酬も支払われなかったという内容です。

取引先の会社は発注した仕事に対する報酬と慰謝料の支払が命じられました。

この裁判のポイントは2つあります。

1つ目は、通常企業が雇用する従業員に対して負う「安全配慮義務」が、直接雇用関係がない個人事業主に対してもある、と認められた点です。

雇用関係のある従業員と企業の間では「お互いに信頼して取引等を行いましょう」という信義則の原則が根拠となって、企業側が「安全配慮義務」を負っています。これが業務委託を受けた個人事業主と発注元である取引先企業の間にもある、ということが根拠となりました。

2つ目は、個人事業主の弱い立場につけ込んで「報酬を支払わない」など、経済的に不利益を与える行為が「パワハラ」として認められたことです。

つまり、直接の雇用関係になくても、企業は業務委託契約を結んでいる個人事業主に対してのパワハラやセクハラについて責任が追及される可能性があることが、この裁判例で広まりました。

取引先にハラスメント対策の義務はある?

発注先にハラスメントの責任を追及することは可能ですが、現時点では発注元となる企業に雇用している従業員以外へのハラスメント防止措置について法的な義務はありません。

2022年4月より義務化された企業のハラスメント対策とは、あくまでも雇用関係にある従業員に対してのものです。

しかし直接雇用関係がない間柄であっても、パワハラに関する公的な指針においても、「雇用する従業員と同じようにハラスメント防止措置を行うことが望ましい」と示されています。

法的義務がないとは言え、企業がハラスメントに対しての責任を一切負うことがないというわけではありません。

ハラスメントを受けたときの相談先

個人事業主の場合、ハラスメントの被害を受けたとしても相談相手がおらず、孤立する傾向にあります。個人事業主同士で起きたトラブルだと相手側に訴えることも難しいかもしれません。

このような場合でもひとりで悩まず、公的な支援サービスを活用しましょう。ほとんどが無料で相談することができ、解決のために支援をしてくれます。

ここでは代表的なものをご紹介しますが、所属する業界によっては個別の支援団体がサポートしている可能性もあるので、それを調べてみるのも良いでしょう。

フリーランス・トラブル110番

政府と連携をして弁護士会が運営をしているフリーランス向けの相談センターです。法律の専門家である弁護士が、無料で相談から解決までワンストップでサポートをしてくれます。匿名での相談も可能です。

ハラスメントについての相談はもちろんのこと、低すぎる報酬や一方的な減額など、フリーランス特有の悩みも相談することができます。

(HP:https://freelance110.jp/case/detail-2/

みんなの人権110番全国共通人権相談ダイヤル

法務局が運営する、ハラスメントも含む人権問題について相談を受け付ける無料の相談ダイヤルです。電話相談だけでなく、インターネットで相談フォームから相談、あるいは法務局や支局での対面相談もあります。

対応するのは法務省の職員や人権擁護委員で、人権問題について専門的な知識を持った方々です。解決に向けて調査を行い、救済のための措置を探ってくれます。

(HP:https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken20.html

法テラス

国によって設立された機関で「法的な方法による問題解決」をしたい方へ、法律に関する相談機関や団体などの情報を無料で提供してくれます。国や地方公共団体、各支援団体などと連携もあり、サポート力も強いことが特徴です。

(HP:https://www.houterasu.or.jp/

ハラスメントで訴える場合はどうすればいい?

実際にハラスメントに対して、法的な措置を取りたい場合は、法テラスなどで情報を集めることや、専門家である弁護士を探すことから始めましょう。

いきなり自分で訴訟を起こそうとしても、十分な証拠が揃えられず、うまくいかない可能性があります。

弁護士に相談すれば、法的な証拠を集めるところからアドバイスも貰えるでしょう。

ハラスメントから自分の身を守りましょう

ハラスメントのような人権侵害行為は本来あってはならないことで、現在ではハラスメントに対する世間の目は非常に厳しいものとなっています。

そして、2022年4月からすべての企業へハラスメント防止措置を義務付けたことで、ハラスメントに対して事業主の責任を問う風潮が一層加速しました。

今現在、法的な義務は雇用する従業員に対してのみですが、個人事業主など、社外の取引先に対してのハラスメントが認められた裁判例も出たことから、泣き寝入りするしかない問題ではなくなっています。

個人事業主は自分自身が資本であるからこそ、その身を守るために積極的に動きましょう。

もし、取引先企業とのハラスメントに悩んでいるなら、まずは相談しやすいところへ話をすることで解決の糸口が見つけられるはずです。こうしてハラスメント被害から自分自身を守ることが、事業のためにも心身の健康のためにも大事なことです。