個人事業主による開業届出書の作成・提出について
個人事業主として事業をスタートさせる際、「開業届出書」を税務署に提出しなくてはなりません。これは法律で定められた義務ではありますが、罰則規定がないという理由で開業届出書を提出していない個人事業主もいます。ただ、開業届出書を提出することで享受できるメリットは大きく、適切な手続きを経て開業することが推奨されます。
本記事では、開業届の意義や、開業届出書の提出に至るまでの流れ等を解説していきます。最後までご覧いただき、事業を開始する上での重要手続きである「開業届出書の提出」について、しっかりと学んでいただければ幸いです。
個人事業主になったときは開業届出書を提出する
個人事業主になる際には、開業届出書(正式名称:個人事業の開業・廃業等届出書)を作成し、税務署に提出することが求められています。これは、個人事業主として事業活動を始めるための重要な手続きです。
開業届出なしで事業はできない?
開業届出書の提出は、法律上、個人事業主にとっての義務であり、提出期限は原則として事業を開始してから1ヶ月以内とされています。しかし、開業届出書を提出しないことに対する罰則は定められていないため、提出しなくても事業活動自体は可能です。ただし、開業届出書を提出しないと、以下のようなデメリットがあります。
- 青色申告で確定申告ができない
- 小規模企業共済に加入できない
- 屋号付きの銀行口座を持てない
- 創業融資や銀行からの融資を受けられない
業種によっては許認可が必要
日本国内で、特定の業種において事業を開始するには、行政機関からの許認可の取得が必要です。許認可を取得せずに該当する業種での営業を開始した場合、法的な罰則が科されるリスクがあるため注意が必要です。
開業を考える際には、事前に、自身の事業に関連する許認可の存在を確認し、必要な手続きを進めましょう。
許認可が必要とされる主な業種については、以下のようなものが挙げられます。
- 飲食業
- 食品製造業・販売業
- 宿泊業
- 理容業
- 警備業
- 自動車運転代行業
- 探偵業
開業届出書の提出でできるようになること
開業届出書の提出は、個人事業主としての事業活動を正式に開始するための基本的な手続きです。提出しないことによる罰則がないため、開業届出書を提出しない個人事業主も少なくありませんが、開業届出書を提出することには次のようなメリットがあるため、できるだけ提出しておくようにしましょう。
青色申告の選択
開業届出書をあらかじめ提出している場合、もしくは開業届出書と同時に「所得税の青色申告承認申請書」を提出することで、確定申告の際に青色申告を選択することができます。
そして青色申告を選択した場合、主に以下のようなメリットが挙げられます。
- 青色申告特別控除の適用:所得から最大65万円の控除が受けられる。
- 純損失の繰越・繰戻:損失が発生した場合、前後の年度への繰越および繰戻し処理が認められる。
税務上の負担を軽減することができるため、青色申告は多くの事業者にとってメリットとなります。
専用の銀行口座の開設
開業届出書には「屋号」の欄があり、この屋号を利用して専用の銀行口座を開設することが可能となります。この専用口座は、事業関連の入出金を一元的に管理することができ、経理作業を効率化できます。個人の口座と事業の口座を同一にしても法的な問題は生じませんが、屋号を掲げた専用口座を持つことは、取引先との信頼関係の構築やイメージ向上に寄与します。
融資や契約締結時の審査
開業届出書を提出した際、その控えを手元に保管することになります。この控えは、融資の申し込みやクレジットカードの申込時の審査など、様々な場面で、職業証明書として役立ちます。
サラリーマンの場合、在職の証明として会社から在職証明書が発行されることが一般的ですが、個人事業主にはそうした証明書が存在しません。そのため、開業届出書の控えが実質的な職業の証明となるのです。
例えば事業用のオフィスを賃借する際の審査でも、この控えを提出することで、個人事業主としての事業活動を証明できます。
開業届出書を提出するまでの流れ
開業届出書を提出するには、まず事前に届出書を税務署の窓口で入手するか、もしくは国税庁のウェブサイトからPDFをダウンロードすることが必要です。
開業届出書を入手できた後の流れについて、以下で説明していきます。
屋号の検討
屋号は個人事業主やフリーランスが持つ事業の名称で、法人でいうところの会社名に相当します。屋号は必須ではなく、個人名で活動することも可能です。しかし、屋号を持つことにはメリットもあるため、検討する価値はあるでしょう。
- 印象的な屋号は人の記憶に残りやすい
- 事業用の銀行口座を屋号名で持つことができる
屋号を考える際には、業種がイメージしやすい、読みやすい、他の事業者と似た紛らわしい名称や商標権を侵害する名称は避ける、といったことがポイントとなります。
開業届出書の作成
屋号が決まれば、実際に開業届出書に必要事項を記入していきます。記入する項目としては、氏名や屋号の他に、納税地、マイナンバー、事業の概要などがあります。
また、e-Taxを利用することで、オンラインで簡単に開業届出書を作成し、提出することも可能です。e-Taxは国税庁が提供する電子申告・納税サービスで、パソコンやスマートフォンから利用できます。
以下は、e-Taxのシステムを利用して、開業届出書を作成するための手順です。
1. 初めに、e-Taxの利用に必要な次の環境を整えます。
- インターネット接続環境のあるパソコン
- マイナンバーカード(電子証明書が搭載されたもの)
- ICカードリーダライター
2. 次に、e-Taxサービスの利用を開始するにあたり、16桁から成る利用者識別番号を取得する手続きを行います。この番号はe-Taxの公式サイトから取得することができます。電子データの送信に際して、送信者の身元を証明するために電子証明書を用いるのですが、この電子証明書はマイナンバーカードに内蔵されているものを使用します。
3.公式サイトよりe-Tax専用のソフトをダウンロードし、パソコンにインストールします。この際、所得税のデータも追加でインストールすることが必要となります。
4. インストールしたe-Taxソフトを起動し、「個人事業の開業・廃業等届出書」の項目を選択します。必要な情報を入力し、最終的にマイナンバーカードを用いて電子署名を付与してから送信します。
送信が完了すればメッセージボックスに受信通知が届きます。この通知は、データが正常に税務署へと送信された証明となりますので保存しておきましょう。
事業開始から1ヶ月以内に税務署に提出
開業届出書は、事業を開始した日から1ヶ月以内に提出する必要があります。提出先は、事業を行う住所地の管轄税務署です。税務署に足を運んで提出する方法以外にも、郵送やe-Taxを利用してオンラインで提出することもできます。
開業届出書を提出した際には、必ず控えを受け取り、大切に保管することが重要です。この控えが、今後、個人事業主として活動を行う上での証明書となります。
e-Taxを利用して開業届出書を提出した場合には、送信した「開業届出書のデータ」と「受信通知」を印刷したものが開業届の控えとなりますので、併せて保管しておきましょう。
開業届出書と一緒に提出しておきたい届出書や申請書
開業届出書を提出する際に、一緒に提出することを検討したい届出書・申請書がいくつかあります。例えば次のような書類です。
● 青色申告承認書の届出
● 青色事業専従者給与の届出
● 給与支払事務所等の開設の届出
● 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
個々の事情により必要でないものもありますが、青色申告を選択する場合には、開業届出書と「青色申告承認申請書」を同時に提出します。
また、従業員を雇用する場合には、社会保険の加入手続きも必要となります。これは、管轄が労働基準局やハローワークとなります。
開業届出書やその他の手続を忘れないようにしよう
個人事業主として活動を始めるために、開業届出書の提出は最初の重要なステップとなります。また今後活動をしていく上で、他にも様々な手続きを行うことになるでしょう。その中には、適切な手続きをすることで税制上の恩恵を受けることができるもの、手続きを怠ることでペナルティが科されるものもあります。
そのため事務的な作業にも高い意識を持って取り組み、そのために必要な知識を身に付けることが重要といえるでしょう。