個人事業主が利用できる相談窓口「フリーランス・トラブル110番」について

フリーランスや個人事業主がトラブルに直面したとき、助けとなるのが「フリーランス・トラブル110番」です。このサービスは、取引相手との契約に関する疑問から法的な問題まで、幅広い相談に対応しています。

本記事では、このサービスの概要から具体的な相談内容、そして相談する際のポイントまでを詳しく解説していきます。フリーランスとして安心してビジネスを展開するために、「フリーランス・トラブル110番」がどのように役立つのかを知っておきましょう。

フリーランス・トラブル110番とは

フリーランス・トラブル110番は、日本国内のフリーランスに特化した法律相談サービスです。厚生労働省、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁といった省庁と、弁護士会が連携して設立されました。このサービスはフリーランスが遭遇する多種多様なトラブルに対応するためのものであり、報酬未払い、契約不履行、依頼者とのコミュニケーション問題などに対する法的アドバイスを提供します。

サービスの特徴

  • 対象者: フリーランスとして働く全ての人々

(例:スタイリスト・エンジニア・一人親方・カウンセラー・デザイナー・ライター・イラストレーター・トラック運転手など)

  • 相談内容: 報酬未払い、依頼者との紛争、著作権問題など
  • サービスの形態: 電話相談、メール相談、Web会議、対面相談

このような総合的なサービスを提供することで、フリーランスが安心してビジネスを展開できる環境を整えています。

弁護士に無料で相談できる

フリーランス・トラブル110番の最大の魅力は、その相談が無料である点です。

弁護士に一度相談するだけでも5000円以上かかる場合が多いですが、フリーランス・トラブル110番では、専門的な法的アドバイスを無料で受けることができます。また、相談にあたる弁護士は、フリーランス特有の問題に精通しているため、的確なアドバイスが期待できます。

さらに、フリーランス・トラブル110番では、弁護士による「和解あっせん」も無料で行なっています。

和解あっせんとは、紛争解決のために弁護士が仲裁役となり、当事者間の対話を進めやすくしてくれるというものです。多くの法的サポートサービスでは、初期相談は無料でも、具体的な措置や手続きには費用が発生するケースが一般的ですが、フリーランス・トラブル110番では和解あっせんまでも無料で行なってくれるという点が大きな魅力です。

取引先に秘密で相談できる

弁護士には法的な守秘義務がありますが、このサービスも秘密を厳守してくれます。相談内容が外部に漏れる心配をする必要もないでしょう。これは取引先との関係を継続する上で重要な点です。

Web会議やメールでも相談できる

フリーランス・トラブル110番は、電話だけでなく、Web会議やメールでの相談も受け付けています。これにより、全国どこからでも気軽に相談ができます。

フリーランス・トラブル110番ができた背景

働き方の多様化が進んでおり、従業員に対する副業許可を出している企業も増えてきました。この流れを受けて、フリーランスや個人事業主の数は増えており、その働き方が社会に広く認知されつつあります。しかし、この多様な働き方が浸透するにつれて、取引先とのトラブルも増加しているのが現状です。

日本のフリーランスの約半数が何らかの形でトラブルを経験しているとされ、その多くが解決策を見つけられずにいます。

このような状況を改善するために、フリーランス・トラブル110番は設立されました。公的機関と弁護士が協力してこのサービスを運営し、フリーランスが法的な問題に直面した際に、無料で質の高いアドバイスを提供することがこのサービスの主な目的です。

フリーランス・トラブル110番でできること

フリーランスとして活動していく中で、様々なトラブルに直面する可能性があります。そうした場合、どこに、どのような相談をすれば良いのか分からず、泣き寝入りしてしまうケースもあります。

実際、フリーランス・トラブル110番には多様な相談が寄せられています。以下に、具体的な例を交えていくつかの典型的なトラブルとその相談内容を紹介しますので、参考にしてください。

業務委託契約の内容についての相談

Aさんは制作会社から曖昧な指示の元、プロモーションビデオを制作。納品後、期待とは違うとの理由で作品を受領してもらえませんでした。Aさんは報酬が支払われないまま困り果て、フリーランス・トラブル110番に相談をしました。

フリーランス・トラブル110番の対応:

AさんとWeb面談を行い、事情を確認した上で、制作会社の担当者とのメール内容を確認しました。その結果、Aさんが事前に何度も作品の方向性を確認しようとしたものの、担当者からは具体的な回答がなかった点が明らかになりました。契約書が存在しなかったものの、Aさんは過去に行なった同様の仕事の報酬を基準に支払われることを希望し、和解あっせん手続きを行いました。最終的に制作会社もAさんのスキルを評価し、今後も仕事を依頼したいとのことで、Aさんが要求した報酬の8割を支払うことで合意。さらに、今後のプロジェクトでは、打ち合わせ時間をしっかり確保するという条件で話がまとまりました。

報酬が未払いであることの相談

Bさんは、ファッション雑誌のスタイリングを担当したものの、クライアントの出版が遅れたという理由で報酬を支払ってくれない状況です。Bさんは自力で何度も交渉を試みましたが、状況は改善しないまま疲弊し、「フリーランス・トラブル110番」に相談を持ちかけました。

フリーランス・トラブル110番での対応:

まず、クライアント企業の財務状況を確認したところ、クライアントが資本金1000万円以上の企業であることがわかりました。フリーランス側に過失がないにもかかわらず、資本金が1000万を超える発注者が契約代金を不当に支払わない・遅延する行為は、下請法に違反する可能性があります。対策として、Bさんには中小企業庁の下請法違反の申告窓口があることを説明したところ、そこに申告をするということを決断されました。

パワハラを受けたことの相談

Cさんは、自分が撮影した写真が許可なく他で使用され、そのことを指摘したことからトラブルに発展してしまいました。さらに「お金のことばかり考えている」と非難された上に、謝罪まで要求されたのです。

フリーランス・トラブル110番での対応:

フリーランス・トラブル110番では、まず、パワハラが成立している可能性を検証しました。Cさんのケースでは、依頼主からの過度な言葉と、無許可で作品を使用された行為が確認されたため、パワハラの可能性が高いと判断されました。その後、Bさんが「できるだけ早く解決したい」という意向だったので、クライアントに対して著作権の問題とパワハラについて慰謝料を求める交渉が行われました。結果的に、発注者はパワハラについては認めなかったものの、無許可使用は認めたため、解決金が支払われることになりました。

不当な減額・低い報酬についての相談

ライターのDさんは、10記事分の作成依頼を受け、納期を守って全て提出しました。ところが、発注者から「思っていたのと違うから報酬を下げる」と一方的に通告されました。契約書にはそういった減額の条項はなく、Dさんは困惑し、フリーランス・トラブル110番に相談しました。

フリーランス・トラブル110番での対応:

契約内容を確認したところ、契約書には「納期に遅れた場合のみ減額可能」としか書かれていませんでした。Dさんの希望により、和解あっせん手続きが行われ、発注者に対して正当な報酬の支払いを交渉しました。発注者に減額の根拠の提示を求めましたが、具体的な理由は述べられないまま、契約書通りの報酬が支払われました。

他にも、配達員の仕事をしている方で、非常に安い報酬だと相談があり、詳細に分析したところ、最低賃金を下回ることが判明。その旨をクライアントに交渉するようにアドバイスをした結果、報酬が見直された例もあります。

報酬の返金や損害賠償についての相談

Eさんは、モデルの私服にダメージを与えたとして、クライアントから報酬の返金と高額な損害賠償を請求されました。自身の記憶として、そういった過失はないと思ってはいるが、訴えられるリスクがあるため、相談したとのことです。

フリーランス・トラブル110番での対応:

状況が複雑であるため、和解あっせん手続きを提案し、Eさんは手続きを進めました。当時の状況を詳細に確認し、双方の意見をまとめたところ、Eさんにも過失は認められました。しかし、当初の請求ほどの損害はないことが明らかになったため、Eさんが少額のお詫びを支払うことで解決しました。

毎月数百件の利用者がいる

フリーランス・トラブル110番は、フリーランスが抱える様々な問題に対する相談窓口として多くの相談が寄せられています。その数は、令和4年8月には642件に上りました。令和3年度の月平均は約350件程ですので、倍以上に増加しています。

年齢層では、20-29歳・30-39歳が多く、業種は多様。幅広く利用されていることがわかります。相談内容については、報酬の支払いや契約内容に関する相談が全体の約50%を占めています。

参考資料:フリーランス・トラブル110番の相談実績について|厚生労働省

フリーランス・トラブル110番を利用する手続の流れ

フリーランス・トラブル110番を利用するとき、次のような流れとなります。

  1. 電話・メールでフリーランス・トラブル110番に連絡
  2. 必要に応じてビデオ通話や対面で相談
  3. 必要に応じて和解あっせん手続、その他適切な機関の紹介
  4. 和解を目指す

フリーランスとして活動していく上で、フリーランス・トラブル110番のようなサービスを知っておくと役立つ場面もやってくるかもしれません。また、そもそもトラブルに巻き込まれないようにするには法務知識を身に付けておくことも重要といえるでしょう。