業務委託に最低賃金はない!フリーランスが知っておきたい報酬のルール

業務委託で請け負った業務を遂行する中、「予想以上に時間がかかり時給換算で考えたらとんでもないことに…」なんてことはありませんか?

業務委託の報酬が低いと、いわゆる”最低賃金”が適用になるのか、疑問に思うこともあるでしょう。

この記事では最低賃金とは何か、そして個人事業主の報酬についてどのようなことが問題となるのかをアドバイスとともに解説しています。

報酬について何か問題を感じている個人事業主の方へおすすめの記事です。

最低賃金とは

最低賃金とは、労働者に対して使用者が支払わなければならない賃金の最低額をいいます。

都道府県別かつ時間給で決められているものが一般的で馴染みが深いでしょう。

令和5年8月時点では地域別の最低賃金の最高額は東京都の1,072円で、最低額は10県に適用されている853円です。

※令和4年の地域別最低賃金について詳しくはこちら
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html

この地域別の最低賃金は、労働者本人の居住地ではなく労働者を雇用する事業の所在地によって決まります。例えば埼玉県居住の労働者でも、東京都の事業に勤めていれば東京都の最低賃金以上が支払われることになります。

それから、あまり知られていませんが特定の産業に定められている最低賃金もあります。

※特定産業の最低賃金について詳しくはこちら
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/minimum/minimum-19.htm

両方に該当する場合は、使用者はどちらか高い方の金額を補償しなければなりません。

それ以外にも最低賃金には次のようなポイントがあります。

まず、この最低賃金は全ての労働者が対象です。

日本より物価の安い国から働きに来ている外国人の労働者に対し、母国の物価が安いからという理由で最低賃金以下の金額を定めることはできません。

それから最低賃金は時給で決められていますが、日給制や月給制の場合でも時給換算したときに最低賃金を下回ることは違法となります。

計算の際は、最低賃金の比較対象にはならない賃金がありますので、それを除いた金額で時給換算しなければなりません。

以下は代表的なものですので、確認しておきましょう。

・通勤手当

・賞与(1ヶ月を超える期間ごとに支払われるもの)

・時間外労働や深夜労働に対して支払われる割増部分

・時に支払われるもの(結婚祝金や慶弔見舞金など)

最低賃金のルールに違反するとどうなる?

では、この最低賃金のルールに違反した場合はどうなるのでしょうか?

例えば東京都にある事業では時給900円だと最低賃金を下回ることになります。この場合は、たとえ労使が合意していたとしても時給900円という決まりは無効となり、最低賃金法で決められている1,072円との差額を事業主は支払わなければなりません。

もしこの最低賃金法が守られていない場合、雇用されている労働者の立場からはどうすればいいのでしょうか。

使用者に直接相談することも可能ですが、実際はそうすることが難しい場合が多いでしょう。

労働組合があれば組合へ相談できますが、労働組合がない場合は事業場管轄の労働基準監督署へ相談することも選択肢のひとつです。労基署の調査でその事業が最低賃金法に違反していることがわかれば、事業主は是正勧告を受け、差額分を支払わなければなりません。

もし事業主が労基署の是正勧告に従わず差額を支払わなかったり、悪質性があると認められたりする場合は、事業主は50万円の罰金という罰則を受けます。

最低賃金を下回る業務委託契約も違法ではない

発注者と業務委託契約を結んで仕事を請け負う個人事業主に、最低賃金は保障されているのでしょうか?

結論から言うと、業務委託として請負った報酬の金額に最低賃金法は適用されません。

例えば5,000円で請け負った仕事に10時間かかった場合、時給換算すると500円になりますが、それは全く法律違反にならないということになります。

業務委託に最低賃金のルールが適用されない理由

最低賃金が業務委託報酬に適用されない理由は、最低賃金法の保護の対象が「事業に使用される労働者」だからです。

この最低賃金法でいう「労働者」とは労働基準法で定められている労働者の定義と同じで、個人事業主は通常はこの「労働者」に該当しません。

「労働者」とは、使用者と雇用契約を結んで指揮命令を受けて働き、その対価として賃金を得る者のことを指します。

労働者は基本的に使用者の指揮命令には従わなければならず、雇用契約によって様々な制限を受ける立場です。一方で個人事業主はその仕事を受けるかどうか、請負った業務をどのように遂行するかを自由に決めることができます。

つまり雇用契約を結んでいる労働者とは違い、業務委託契約で仕事をする個人事業主は本人に認められる裁量が大きいため、労働基準法の保護の対象ではないのです。

時給制の業務委託も可能

請け負う業務によっては1件あたりの報酬額が決定しづらいケースもあるでしょう。

そのような場合、業務委託であっても時給制にすること自体は違法にはならず、問題にはなりません。

発注者との交渉の際に報酬決定の目安として最低賃金を参照することは可能ですが、それを下回った金額で業務を請け負ったとしても最低賃金法には違反しないこととなります。

業務委託における報酬は交渉次第

つまり個人事業主は労働者と違い、最低賃金法や労働基準法からの保護から外れてしまうため、たとえ報酬が低くてもそれが違法になることはなく、最低賃金を理由に発注者に報酬の是非を法的な面で訴えることはできません。

しかし、一方で業務委託であるからこそ、報酬をどのように決定するかは個人事業主と発注者との交渉・契約次第となります。

報酬について低すぎると感じる場合は、発注者と交渉をしたり、あるいはその発注者の仕事を受けないということも視野にいれたり、自身の報酬をコントロールしようする姿勢が必要です。

最低賃金を下回る業務委託契約が違法になるケース

個人事業主で業務委託として請負っている仕事でも、すべてのケースが必ずしも「最低賃金法の適用にならない」というわけではありません。

たとえ”業務委託契約”という名称で契約書を交わしていても、最低賃金法が個人事業主に適用されて違法になるケースはあります。

代表的な例としては「個人事業主が事業に使用される労働者と認められる場合」が挙げられます。

もし、労働者として認められれば最低賃金法も含めて労働基準法などの保護対象となり、最低賃金を下回った金額の労働に対しては事業主に差額の支払義務や、残業代や深夜労働に対する割増賃金などの請求権も生じます。

しかし「労働者であるかどうか」というのは各々の働き方の事情によって総合的に判断されるため、一概に言うことはできません。

判断の基準はその働き方が「使用者の指揮命令を受けて労働し、その対象として賃金を支払われる者」(使用従属性とも呼ぶ)であるかどうかということです。

具体的には次に挙げるポイントを他の労働者と比較したときに、どの程度の違いがあるかが重要になります。

・仕事の依頼を受けるかどうかの諾否の自由があるか

・業務を行う上で発注者からの細密な指示を受けるか

・勤務場所・勤務時間の拘束性はどの程度か

・報酬に労務対償性があるか

・個人事業主に事業者性があるか

・他の発注者からの仕事を受けることに制約があるか

もし他の労働者とほとんど変わらない条件で働いているにも関わらず、最低賃金法を下回るような報酬しか支払われていない場合は、問題となる可能性があります。その場合は労働局や労基署に設置されている総合労働相談センターなどに相談してみましょう。

業務委託の報酬についてのルール

個人事業主の報酬について最低賃金が問題となるのは限られたケースとも言えますが、それ以外にも業務委託の報酬については下請法や独占禁止法などの側面から問題となるケースがあります。

例えば、次に挙げるようなケースはこれらの法律に違反する事例です。

・支払期日を過ぎたにも関わず発注者がなかなか支払わない

・契約の範囲外のサービスの提供を求められた

・発注者側から一方的に著しく低い報酬を決定された

・教育コストを理由に不利な条件や低い報酬を提示された

・一度契約したにも関わらず、発注者の一方的な都合で強制的に報酬を減額・キャンセルされた

このように、下請法や独占禁止法は発注者が「優越的な地位を利用して個人事業主に対して不利益を与えること」を禁止しています。

また、発注者が取引条件を明確にした書面を交付しないことも、後々のトラブルに繋がる可能性が高くなる要因です。

特に報酬やサービスに含まれない業務などの契約内容は重要な取引条件となりますので、必ず条件を明確にした文書を残すようにしましょう。

資本金1,000万円を超える発注者には、フリーランスに発注をする際に取引に関する書面の交付が義務となっています。しかし、その条件に該当しない場合であっても発注者、受託者ともに書面を残すようにすれば、後々のトラブルを防ぐことができるでしょう。

もし、個人事業主としてこれらのトラブルがある場合は「フリーランス相談窓口」などに相談することもできます。

業務委託でも最低賃金以上を確保する方法

事業と雇用契約を結ぶ労働者には、最低賃金や労働時間などに法律上の保護がありますが、業務委託契約等を交わす個人事業主には報酬の下限や法律の保護がありません。

そのため、一定以上の報酬を得るために個人事業主自身が報酬について自ら工夫をする必要があります。

もし低すぎる報酬に悩んでいる場合は、報酬決定の際に次のことを意識して行動することで、報酬額の改善に繋がる可能性もあります。

報酬について交渉する

報酬については、発注者との交渉により定めるのが基本です。

業務について十分な経験がなかったり、個人事業主として仕事を始めたばかりだと発注者の言い値で受注してしまうこともあると思いますが、自分から報酬を提示する姿勢も重要です。

最初は言い出しづらい内容でもありますが、取引を継続することでスキルや実績も積み上げられますし、信頼関係が生まれれば発注者が「あなたに頼みたい」と思うこともあるでしょう。

その際に、改めて値上げの交渉をするということも有効な手段となります。

報酬の相場を知る

事前に報酬の相場を調べておくことも重要です。

例えば相場を知らずに著しく低い報酬で仕事を受けてしまった場合、その低い報酬で契約を更新し続けなければならず、値上げの交渉をしても本来の相場価格に届かない可能性もあります。

更には業界内で「安い報酬で頼める」という方面で名前が広まってしまった場合、他の発注者からも同じような見積額を求められることもあります。

そうなると、適正な価格の仕事を請け負うことが難しくなってしまいますので、報酬の相場を知って低すぎる報酬の仕事を受けないことが大切です。

また相場に対して著しく低い報酬を示す発注者は、その業務への価値観が受託者と異なる可能性が高く、他の個人事業主などからも仕事を断られているかもしれません。トラブルを抱えやすい取引先の可能性もありますので、そのような事態を避けるためにも、自分の請け負う仕事の相場を知っておきましょう。

スキルや実績を積む

特に個人事業主として仕事を始めたばかりで、業務経験が浅かったりスキルが低いと感じる場合は値上げ交渉もしづらくなります。

また、発注者の立場でも実績やスキルの低い個人事業主から値上交渉をされても、納得しづらいでしょう。

もし、相場以上の報酬を求めたい場合は、自分自身のスキルや実績を積んだり他の受託者にはないスキルなどのアピール材料を増やしたりすることも、報酬をあげるのに必要なことのひとつです。

報酬や最低賃金についてのルールを理解して交渉を始めよう

最低賃金という言葉はニュースなどでも見かけることがあり馴染みのある言葉となっていますが、全ての働く人に適用されるものではないことまで知っている人は少ないでしょう。

特に個人事業主と労働者の働き方については、法律上の取り扱いが大きく異なります。

賃金や報酬などの重要な条件で大きな違いが生じるので、後々「こんなことだとは思わなかった」というトラブルや悩みに発展する可能性も高いです。

しかし、いざこれらのことを学ぼうとしても法律に関する知識は幅広く、奥も深いので、自分に今必要な知識に絞ること自体が難しいことでもあります。

この点、「じぶんでバックオフィス」では個人事業主として働く方を対象に、必要な労務や税務の知識を揃えています。「もっと労務や税務の知識をつけたい」「最後は自分でできるようになりたい」というような思いを持つ個人事業主の方に向けたコンテンツで学ぶことができますので、この疑問をきっかけに是非学んでみませんか?