個人事業税とは?課税対象の業種、納税が不要になるケースをわかりやすく解説

突然届いた個人事業税の納付通知書に、困惑したことのある個人事業主は少なくないでしょう。「個人事業税」という言葉自体、個人事業を開始するまで耳にする機会はないかもしれません。しかし、個人事業主として活動していく上で個人事業税への理解はとても重要であり、その仕組みから納付方法、そして免税に至るまでの基本知識は備えておくべきです。

本記事では、個人事業税の概要から課税対象となる事業、そして特定のケースで納税が不要になる事例まで具体的に解説していきます。

個人事業税の概要

個人事業税は、個人が自身の事業から得た所得に対して課される地方税の一つです。

この税金は都道府県に納められ、道路や公園の整備、公共施設の運営、地域の安全確保など、地域社会を支えるための公共サービスの運営に使われます。

個人事業主が納めるべき税金の1種

個人事業主が納税義務を負う税金は個人事業税だけではありません。

所得税、消費税、住民税など多くの税金が存在し、それぞれの税金は異なる目的と課税基準があります。以下は、個人事業主が納税義務を持つ主要な税金です。

  • 所得税:国が課す税金で、所得全体に対して課せられます。
  • 消費税:販売価格に対して課せられる間接税で、商品やサービスの消費に対して課せられます。
  • 住民税:市町村が課す税金で、住民の所得や固定資産に対して課せられます。
  • 個人事業税:都道府県が課す税金で、個人が事業を行うことで得た収入に対して課せられます。

個人事業税が課される趣旨とは?

個人事業税は、個人事業主が事業を行う上で、地域社会の公共サービスを利用する際の費用を補うために課される税金です。これは、公共サービスを利用して利益を上げる者が、その公共サービスの維持にかかる経費を一部負担すべきという考えに基づいています。

しかし、法人と個人事業主では事業の規模や形態が異なり、利用する公共サービスの量や種類も同等ではありません。

例えば、比較的規模の大きな事業を行う法人は、複数の広いオフィスで大量の電力や上下水道、公共施設や公共交通などのインフラを利用します。一方で、個人事業主は小さなオフィスや自宅で事業を運営することが多く、公共サービスの利用範囲がそれほど広くない傾向にあります。

この違いを公平に反映するために、法人には「法人事業税」を、個人事業主には「個人事業税」が課され、それぞれが利用する公共サービスの範囲や能力に応じて経費を分担することになっているのです。

このように、個人事業税は公共サービスの維持と向上、さらには地域社会全体の発展に必要な財源を確保する役割を果たします。個人事業主と法人それぞれが利益を上げるために、必要な公共サービスを利用し、その負担を公平に分けることで、地域社会全体の持続的な成長と発展を支えているのです。

個人事業税の負担はいくら?

個人事業税の負担額は、住民税と同じく前年の所得に応じて決まります。

青色申告特別控除前の所得から事業主控除290万円を引き、その計算結果に業種別の税率を掛けるという形で負担額が算出されます。

税率は業種によって変わりますが、大半の業種では5%が適用されます。

※畜産業、水産業、薪炭製造業などは4%、その他の特定業種は3%。

ざっくり説明すると、所得の5%ほどの負担が個人事業税としてかかってくることになりますが、各種控除、特に事業主控除290万円を差し引いた後の額に対する税率分が負担額ということになります。

なお、業種によっては個人事業税が全く課されない場合もあります。その判断は個別のケースによりますので、具体的な事例については都道府県との相談が必要です。

個人事業税の申告方法・納付方法とは?

個人事業税の申告は基本的に各都道府県税事務所に行います。ただし、すでに確定申告を行っている場合は、その情報が自動的に税事務所に伝わるため、別途の申告は不要です。しかし、確定申告を行っていない場合には自身で申告をしなければなりません。申告の結果、納税義務が発生した個人事業主には納税通知書が送られてきます。

納付時期は年2回に分けられており、第1期は8月31日、第2期は11月30日までが期限となっています。

納付方法としては、金融機関や都道府県税事務所で直接現金で支払う方法の他に、クレジットカードや口座振替を利用することもできます。

振替納税の場合、支払日に口座残高が不足していると納税が滞る可能性があるため注意が必要です。納税の通知は一般的に8月頃に送られてくるので、それを見逃さないようにし、口座残高の管理に留意しましょう。

個人事業税の課税対象者

個人事業税の課税対象車となるのは、70種類の「法定業種」に該当する事業を行う個人事業主です。よって、「法定業種」に該当しない個人事業主やフリーランスは課税対象者ではありません。

「法定業種」とは、地方税法第72条に定められている70種類の業種で、第1種から第3種まであり、税率も異なります。

区分税率事業の種類
第1種事業(37業種)5%物品販売業運送取扱業料理店業遊覧所業
保険業船舶定係場業飲食店業商品取引業
金銭貸付業倉庫業周旋業不動産売買業
物品貸付業駐車場業代理業広告業
不動産貸付業請負業仲立業興信所業
製造業印刷業問屋業案内業
電気供給業出版業両替業冠婚葬祭業
土石採取業写真業公衆浴場業(むし風呂等)
電気通信事業席貸業演劇興行業
運送業旅館業遊技場業
第2種事業(3業種)4%畜産業水産業薪炭製造業
第3種事業(30業種)5%医業公証人業設計監督者業公衆浴場業(銭湯)
歯科医業弁理士業不動産鑑定業歯科衛生士業
薬剤師業税理士業デザイン業歯科技工士業
獣医業公認会計士業諸芸師匠業測量士業
弁護士業計理士業理容業土地家屋調査士業
司法書士業社会保険労務士業美容業海事代理士業
行政書士業コンサルタント業クリーニング業印刷製版業
3%あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業装蹄師業

出典:東京都主税局

上記の法定業種に該当するかどうかの判断は各都道府県税事務所が行うため、担当部署に相談してみることをおすすめしますが、フリーランスとしての業務がどのように判断されるのか、例を少し紹介します。

「Webデザイナー」:Webデザイナーはクライアントの要望に基づいてWebサイトのデザインを作成します。このような業務を通じて収入を得る個人事業主は、法定業種であるデザイン業に該当しますので、個人事業税の対象となります。

「ホームページ制作」:ホームページ制作はデザイン業、製造業、またはコンサルタント業として分類されるため、これらの業種で収入を得る個人事業主は個人事業税の対象となります。

上記の業種であっても、契約内容が業務委託や準委任契約であった場合には課税対象から外れる可能性があります。

課税対象外となる個人事業主の例

つづいて、課税対象外となる個人事業主の例を見ていきましょう。

「法定業種」に該当しない場合には、当然、課税対象外ではありますが、クライアントとの契約内容によって判断が分かれる場合もあります。

WEBライター

文筆業は個人事業税の非課税対象です。

記事やコンテンツを作成してその報酬を得るWEBライターは文筆業に該当するため、個人事業税の対象外となります。

アフィリエイター

アフィリエイターが課税対象外となるかの判断は、アフィリエイターが広告業に該当するかどうかが論点となります。

広告業とは、主にクライアントから依頼を受けて、広告の企画・マーケティング戦略の立案・広告コンテンツの制作・広告掲載の適切な媒体選択など、一連のサービスを提供する業種を指します。

これに対し、アフィリエイトは、Webサイトやブログを通じて広告主の商品やサービスを紹介し、その成果に基づいた報酬を収益としています。

そのため、一般的にはアフィリエイターは広告業とは異なるカテゴリに分類され、個人事業税の対象外となることが多いです。

YouTuber

YouTuberも、アフィリエイターと同様に広告業に該当するかが問題です。

YouTubeに動画をアップロードして収益を得る行為は広告業には該当せず、個人事業税の対象にはなりません。ただし、「企業案件」と称される、企業から直接動画制作の依頼を受けて収入を得るケースについては、動画の内容やコンセプトの策定に深く関与している場合、広告業として見なされることもあります。

システムエンジニア

システムエンジニアの場合、クライアントとの契約内容が判断基準となります。

労働時間の対価として報酬を受け取る業務委託契約や準委任契約の場合には、法定業種に該当しないため個人事業税の対象になりません。

一方で、特定のプロジェクトやタスクを完了して報酬を得る請負契約の場合は、その収入が個人事業税の課税対象となる可能性があります。

課税対象者でも納税が不要になるケース

個人事業税は、法定事業に該当する事業を行う個人事業主やフリーランスが対象です。しかし、課税対象者であっても納税が不要となるケースがあります。

個人事業税には「事業主控除」が設けられており、その額は一律で290万円です。そのため、所得がそれ以下の場合には事業税が課税されません。つまり、年間の事業所得が290万円以下であれば、個人事業税の負担は生じないというわけです。

つづいて、繰越赤字がある場合にも納税が不要になる可能性があります。これは青色申告をしていることが前提になりますが、事業税の計算過程において、その損失を3年間繰越すことが可能です。前年度の赤字があれば、まずそれを差し引くことができるため、たとえ所得が290万円を超えていたとしても、繰越赤字分を差し引いた額が290万円以下であれば事業税は発生しません。

個人事業税を払わない場合どうなる?

個人事業税の通知書が届いているにも関わらず、なにも対応せずに放置した場合には「延滞税」が発生します。この延滞税は納税期限の翌日から自動的に発生し、経過期間が長引けば支払いも困難になっていくでしょう。

最悪の場合、財産が差し押さえられる事態にも陥りかねません。特に個人事業税などの地方税の場合、納付期限から1カ月以上が経過すると、利率が高くなるので注意が必要です。

個人事業税の対象となる事業の判断は、各都道府県や担当者によって意見が分かれる場合があります。したがって、通知書を受け取ったら放置せず、自身の事業が事業税の対象となるのかなどを問い合わせしてみましょう。

個人事業主として活動する以上、個人事業税を含む税制への理解は必要不可欠です。税制を理解することで必要以上の納税を避け、より効率的な事業運営を実現することが可能となります。

本記事が、皆様の税務に関する新たな学びのきっかけとなり、事業発展の一助となれば幸いです。