個人事業主に税務調査が来る基準・傾向を徹底解説!
ビジネスの成功には、税務の知識やスキルは必要不可欠です。その中でも、誰もが避けたいと思う「税務調査」について、「赤字なら問題ない」「売上が少ないと対象外」という誤解や思い込みをしている個人事業主は少なくありません。
これらは誤った認識であり、税務調査についての基本知識や傾向を理解することが必要です。
本記事では、税務調査に関する疑問や不安を解消するために、税務調査の基本知識と調査対象となりやすい個人事業主の傾向等を詳細に解説します。
あなたのビジネスをより健全で透明性の高いものにするため、本記事を通じ、税務についての理解を深めていきましょう。
個人事業主にも税務調査は来る!
個人事業主の中には、「自身の事業規模が、企業や法人より小さいため税務調査の対象にならない」と考えている方もいるでしょう。しかし、それは大きな誤解です。
確かに、統計上個人事業主が税務調査の対象になるケースは、比較的少ないかもしれません。しかし、全く調査が行われないということではないのです。個人事業主であっても、適正な申告をしなかった場合には、税務調査の対象になるということを念頭に入れておきましょう。
税務調査とは
税務調査とは、申告納税制度の適正化と公平性を目的として、法人や個人事業主及び所得者を対象とする、国税庁や地方税務署が行う調査のことです。納税者が税法を遵守し、適正な申告を行っているかの調査であり、「任意調査」と「強制調査」の2つの形式が存在します。
任意調査は、税務署が事前に調査の意向を通知し、納税者の同意を得て行われる調査です。税務署はこの調査を通じて、税金の計算方法、経費の適用、税金の支払い時期、税金の適正な額などをチェックします。対象者が任意に応じる形式であるため、事前に準備や対策をすることは可能です。
一方、強制調査は、税法違反の疑いが強いと判断した場合に、対象者の同意を得ずに行われます。この調査は、脱税の金額が多い場合や、悪質な隠蔽工作を行っている疑いがある場合
に、裁判所の令状を持った国税局査察部が強制的に実施する調査です。
個人事業主に税務調査が来る確率は1%?
個人事業主に対して税務調査が行われる確率は、全体の約1%であると言われています。
事実、国税庁が平成30年に発表した「税務行政の現状と課題」によれば、法人に対して実施された税務調査の割合を示す「法人実調率」は3.2%であり、個人事業主の場合は1.1%です。参考:国税庁「税務行政の現状と課題」
しかし、この1%という確率は全ての個人事業主に等しく当てはまるわけではありません。税務調査が行われる対象はランダムに選ばれるわけではなく、税務署が独自の判断で調査対象を選定しているのです。たとえば、申告の遅れや不適切な経費の計上など、税務違反の可能性がある事業主は、調査の対象となる確率が高いと言えるでしょう。
税務調査の確率は、個々の事業主の税務処理の適切性や税法への遵守度に大きく影響されるため、純粋な統計よりも自身の税務管理の状況を見直すことが求められます。
税務調査が来る明確な基準はない
税務調査が行われるのは、一定の売上や利益または事業規模などの基準があると考えている人もいるでしょう。しかし、実際には税務調査が行われるかどうかを決定する明確な基準は存在しません。それは、税務署が多くの要素を考慮して、独自の判断で調査対象を選んでいるからです。
それでも、特定の行為や状況が、税務調査の可能性を高めることは間違いありません。例えば、申告期限を過ぎてからの申告・過去の申告と大きく異なる申告・不適切な経費の計上などは調査の対象となりやすい傾向にあります。また、大きな収入増加や急激な経費増加など、事業の状況と申告内容が大きく乖離している場合も調査対象になりやすいです。
しかし、これらはあくまで傾向であり、調査対象となりやすい状況に該当していても、必ず税務調査が行われるわけではありません。逆に該当しない事業主が調査される場合もあります。国税庁や地方税務署は、全体的な経緯や状況を考慮して、個々のケースを対象とするかどうかを判断するのです。
税務調査が入りやすい個人事業主
税務調査は、すべての事業主に対して実施される可能性があります。しかし、税務署はランダムに調査対象を選定しているわけではありません。
以下に、税務調査が行われやすいとされる傾向について詳しく解説していきます。
確定申告をしていない
「そもそも確定申告をしていないから、財務状況を知られることはなく、調査に来ないだろう」という考えはとても危険です。自身が申告していなくても、取引先や関連する企業が行う税務申告や税務調査の結果から、税務署はあなたの収入情報を知ることができます。これを「反面調査」と言いますが、申告義務があるにも関わらず申告をしていない事業者には、税務調査が入りやすいと考えて間違いありません。
また、税法上、課税所得のある者が申告を怠った場合、無申告加算税の課税が確定します。無申告加算税とは、所得税法で定められた所得税や住民税を、申告期限内に申告しなかった場合や、不足申告をした場合に加算される税金です。この無申告加算税は、通常の税金に上乗せされるため、税負担が大幅に増加します。
毎年同じ金額で確定申告をしている
毎年同じ金額を申告することは、ビジネスの自然な変動を反映していない可能性があり、調査の対象となる原因のひとつです。ビジネスは、市場状況・経済状況・顧客の需要などにより変動します。そのため、毎年同額の申告は、正確な申告が行われていないと判断される可能性が高いでしょう。
不審な売上や経費がある
税務調査が入る大きな原因の一つは、不自然な売上や経費の計上がされている場合です。同業他社と比較して売上が極端に多い、あるいは少ない場合、または経費が過剰に多いと思われる場合には税務調査のリスクが高まります。
さらに、個人事業主は、事業の経費とプライベートの出費の境目が曖昧であるため、特に注意が必要です。例えば、車や携帯電話などの事業用と個人用で兼ねるアイテムを、事業用経費で全額申告すると、個人用の部分も含まれていると疑われ、調査対象になる可能性があります。
不審な申告を避けるためには、売上や経費の内訳を明確にし、適切な証明書類を保管しておくことが重要です。これらの準備は、税務調査時の証拠提出や税務署との交渉にも役立ちます。日頃から経費を適切に管理する意識を持つことで、税務調査のリスクを低減することができるでしょう。
現金商売をしている
現金取引が主となるビジネスでは、税務調査のリスクが高まります。現金取引は記録が残りにくく、データ改ざんの可能性もあるからです。
飲食業や小売業といった現金取引が主となる事業を行っている場合、税務署の注視対象となりやすいため、しっかりとした記録管理が求められます。レジのデータを定期的にバックアップしたり、売上記録を詳細に記録することが重要です。
前年から急激な変化がある
前年と比較して売上や経費に急激な変化があった場合、税務調査の対象となる可能性が高まります。税務署は急激な変化の背後にある理由を詳しく知りたいと考えるでしょう。なぜなら、申告書だけでは具体的な理由を理解することが難しいからです。
もしも急激な変化の理由が明確で、それを説明できる場合は、事前に対策する必要があります。具体的には、決算書の「本年における特殊事情」の欄に、理由を詳しく書いておくと良いでしょう。
例えば、新たな事業を始めた・大型案件を受けた・設備投資をしたなどの事情がある場合、これらを詳しく記載することで、税務調査のリスクを低減することができます。
売上が1,000万円を超える
売上が1,000万円を超える個人事業主は注意が必要です。売上が1,000万円を超えると、それまで免除されていた消費税の納税義務が発生します。この売上金額は、消費税の課税標準として設定されているため、税務署の注視対象です。
また、売上がわずかに1,000万円を下回っている場合、税務署は消費税の納税を避けるために、申告内容を操作しているのではないかと疑う可能性もあります。
したがって、売上が1,000万円を超えた場合、またはその周辺にある場合は、細心の注意を払って記録や申告を行うべきです。
極端に所得が少ない
個人事業主の中には、自由業やクリエイティブな業界もあり、所得が一定でない方もいます。しかし、年間を通じて極端に所得が少ない、つまり、必要最低限の生活費さえ賄えないほどの低所得を申告している場合、税務署から見ると不自然に映るでしょう。
税務署は、個人事業主であっても、生活費や社会生活を維持するための最低限の収入があるはずだと認識しています。そのため、あまりにも低所得を申告している場合、どうやって日々の生活を維持しているのかと疑問を持たれるでしょう。さらには、過小申告によって税金の負担を逃れているのではないかとの疑いを抱かれる可能性もあります。
確かに、個人事業主の所得は様々な要素により変動するものです。しかし、所得が極端に少ないと申告する場合は、その理由を明確に説明できるように準備しておきましょう。
税理士をつけずに確定申告をしている
税務申告は、その複雑さから誤った申告をしてしまう場合があります。特に税法の専門知識を持たずに、自身で確定申告を行っている個人事業主の場合、細かなルールの適用ミスや計算ミスなどを犯している可能性は高いです。当然、誤った申告をすれば、税務調査のリスクは高まります。
一方で、税理士を起用すれば、そのリスクを大幅に軽減することが可能です。税理士は、適切な申告を支援するだけでなく、もし税務調査が行われた場合でも、税法に基づいて適切に反論をしてくれます。税理士がついていれば、誤った申告をしなくなり、調査に入っても追徴課税を課すことができない場合が多いという理由から、税務署が調査に入る可能性が減少するというわけです。
税理士に依頼をするのは費用がかかりますが、長期的に見ると、誤った申告によるペナルティや税務調査のリスクを軽減できるため、コストパフォーマンスは高いと言えるでしょう。ましてや、高額な売上や複雑な経費を抱える個人事業主の場合、税理士の専門的なサポートは必要不可欠です。
海外との取引が多い
海外との取引が多い個人事業主は、税務調査の対象となりやすい傾向にあります。特に、海外投資や仮想通貨といった、近年の経済状況の中でますます注目を集めている分野に関与している場合は、その利益に対する監視は厳しいと考えるべきです。
たとえば、海外投資からの利益に対する課税は非常に複雑で、国や商品によって税率が異なること、それに伴う課税対象額の計算方法も多様であることから、誤った申告をしてしまう可能性があります。同様に、仮想通貨の取引もその価値の変動が激しく、取引所によっても取引記録の保存方法が異なるなど、適切な申告をするのは困難です。
このような理由から、海外取引を行っている個人事業主は、その取引に関する適正な申告が行われているかどうかを確認するため、税務調査の対象となりやすい傾向にあります。
開業から3年程度経過している
開業から3年以上経過している個人事業主は、税務調査の対象となりやすいため、注意が必要です。その理由を詳しく説明します。
新規開業者は税務に関する知識が不十分であることが多く、誤った会計処理がされている可能性が高いです。しかし、開業1年目で大きな利益を上げる事業者は少なく、さらに消費税の納税義務も免除されています。そこで、3年程度経過した時点で、事業の拡大等による会計処理の複雑化に対応しているか、消費税を正しく計算しているかといった調査が行われる可能性が高くなるのです。
また、開業から数年が経過すると、日々の業務に追われる中で税務や会計の処理に対する注意力が緩むことがあります。こうした緩みから生じる不適切な会計処理を是正することが、目的の一つです。
さらに、税務調査では過去3年分の帳簿書類を調査するのが一般的であるため、3年以上経過している事業主はその対象になりやすいといわれています。なぜなら、過去の取引や業績のデータが3年分蓄積した事により、経営状態の推移や会計処理の誤りを、遡って調査できるからです。
税務調査が入る基準についてよくある疑問
税務調査の対象となるかどうかは、個人事業主にとっては大きな不安要素となります。誤った情報や認識によって、逆に調査対象となるケースも少なくありません。
個人事業主が抱える疑問について、以下に回答していきます。
赤字だと税務調査は来ない?
一般的に、経営者が赤字経営を続けていると、税務調査の対象外になると思われがちです。しかし、それは誤った認識であり、税務調査のリスクを高めてしまいます。
まずは、法人と個人事業主では赤字経営の意味することが異なるという理解をしましょう。
法人の場合、たとえ事業が赤字であっても、役員報酬が計上されている限り、その報酬で生活することが可能です。しかし、個人事業主の場合、赤字という結果は、直接的に生活資金が乏しいという事実を示唆します。よって、税務署に対し、申告者がどのように生活資金を調達しているのかという疑念を抱かせてしまうのです。
さらに、連続して赤字を計上することについても注意が必要となります。これは、個人事業主が、「意図的に赤字を作り出しているのではないか」、という疑いを持たれる可能性があるからです。たとえば、個人の生活費を事業経費として計上するなど、意図的に事業所得を減らして税金の支払いを抑制しようとする行為は、税務署から厳しく監視されていると認識しましょう。
売上500万円程度なら税務調査は来ない?
売上が500万円程度の小規模な事業であっても、税務調査の対象になる可能性はあります。誤解されている方も多いですが、税務調査が行われる基準は、売上だけで判断されているわけではありません。
確かに、1,000万円以上の売上がある場合には、税務調査が入りやすくなるという傾向もあります。しかし、その他にも、自身及び取引相手の申告内容・事業内容・業種や業界状況など、多岐にわたる要素を考慮した上で、調査の対象は決定されるのです。
例えば、売上が500万円程度でも、経費の申告が不適切だったり、申告書の記載に不備がある場合、税務調査の対象となる可能性は高くなります。また、同業他社と比較して利益率が著しく低い場合や、業界の動向と異なる結果を示している場合も同様です。
白色申告だと税務調査は来ない?
「白色申告を行っているから、税務調査の対象にはならない」と考えている方もいるのではないでしょうか。白色申告を行う事業者は、事業規模が比較的小さく、また、青色申告と比べて税制上の優遇処置が少ないという理由で、そういった誤解を生んでいるのかもしれません。
しかし、その考えは誤りで、税務調査は事業の規模や申告方法に関係なく、申告内容に不審な点があれば調査対象となるのです。
もし、「税務調査の対象にならないから」という理由で白色申告をしている個人事業主がいるとしたら、青色申告への変更を検討してみましょう。青色申告だから税務調査が来やすいといった根拠はなく、税額控除などの優遇処置を受けることができます。
個人事業主が取るべき対策
これまで、税務調査についての基本知識や、調査対象となりやすい個人事業主の傾向について見てきました。
では、実際に税務調査を受けることになった場合には、どのような対策が必要なのでしょうか。
大事なことは、経費計上した領収書や帳簿などの各種書類をきちんと整理し、要求された際に提出できるようにすることです。税務調査では、これらの書類が会計処理の正当性を証明する証拠となります。経費の詳細を示す書類などが整理されていない場合、税務調査官に対して、その経費が正当なものであることを証明できません。
さらに、税務調査への適切な対応には、税法についての理解が必須です。そのため、税理士に相談することは非常に有効な対策となりますが、その費用は大きな負担になるでしょう。また、税理士に依頼したとしても、自身に税務の知識が全く無い場合には、不利な発言をしてしまうなどのリスクがあります。
費用面で税理士への依頼が難しい場合や、不利な発言等によるリスクを軽減するために、事業主自身が、税務についての基本的な知識を身につけることが大切です。
税務についての知識を持ち、日々の業務で適切な書類管理を行っていれば、税務調査を恐れる必要はありません。
本記事が、あなたの税務を学ぶためのきっかけとなり、事業を続けていく上での不安を和らげる一助となれば幸いです。