青色申告承認申請書の作成方法と提出方法|個人事業主が知っておきたい手続
会社員と違って、個人事業主になると税務は自分でこなさないといけません。青色申告書で確定申告をする場合はより一層税務の知識が必要となります。しかし青色申告とすることには負担もある一方で数多くの利点が存在しています。
そこで本記事では、青色申告承認申請書に関する基本的な知識から、具体的な作成・提出方法に至るまでを詳細に解説していきます。
青色申告承認申請書とは?
青色申告承認申請書とは、正式名称を「所得税の青色申告承認申請書」といい、確定申告を青色申告で行うことを希望する場合に提出する書類のことです。
手続をしなければ白色申告のままですが、これを青色申告へ切り替えるためにはこの申請書を提出しないといけません。
開業と同時に青色申告を選択し、開業届と一緒に提出するケースも多いです。
青色申告をする事業者だけ届出をすればいい
青色申告は必須ではありません。提出しなくても白色申告書で確定申告を行うことは可能です。しかしメリットもありますので、以下の内容も参考の上、検討を進めると良いでしょう。
青色申告をするメリット・デメリット
青色申告をするメリットとデメリットは以下のとおりです。
メリット | 青色申告特別控除 | 55万円(e-Taxで65万円)の所得控除が可能 |
純損失の繰越しと繰戻し | 純損失を翌年以降3年間で差し引き可能。前年も青色申告ならば所得税の還付も可 | |
青色事業専従者給与 | 配偶者や15歳以上の親族に支払う給与を必要経費として計上可能 | |
貸倒引当金の計上 | 貸金の貸倒れによる損失の見込額を必要経費として認められる | |
少額減価償却資産の即時費用化 | 取得価額30万円未満の資産は、年間計300万円まで必要経費として計上可能 | |
デメリット | 手間がかかる | 複式簿記の知識が必要、複数の書類を提出する必要がある |
申請が必要 | 「青色申告承認申請書」の提出が必要 | |
確定申告の期限に遅れると控除額減少 | 期限に遅れると控除額は10万円となる | |
書類の不備で許可取り消しの可能性 | 不備があると許可が取り消される可能性がある |
以上のように、青色申告には多くのメリットが存在します。その反面、負担もありますので個々の事業状況や経営方針に照らし合わせて判断すると良いでしょう。
青色申告承認申請書の提出方法
青色申告承認申請書を提出するには、①税務署の窓口へ持参、②郵送、③e-Taxの3つの方法があります。
※①②の場合、申請書は国税庁のサイトからダウンロードで入手することができます。
- 税務署の窓口へ持参
最寄りの税務署へ作成した青色申告承認申請書を持参し、窓口で手続きを行う。控えを用意しておけばその場で収受印を押してもらるため、持参しておくことが推奨される。
- 郵送
申請書の控えと返信用封筒を同封すると、収受印を押した控えを返送してくれる。
- e-Tax
国税庁運営の電子申告・納税のシステムを利用する方法。申請書を電子的に作成して即時に提出ができる。自宅からでも、営業時間外でも手続きが可能。ただし、e-Taxを利用するためにはマイナンバーカードまたは税務署で発行するIDとパスワードが必須。
このうちの「e-Taxによる青色申告承認申請書の提出方法」について、詳しく紹介します。
- ソフトウェアのダウンロードと設定
国税庁のウェブサイトから専用ソフトウェアをダウンロード。この際、画面の指示に従ってセキュリティの設定(ルート証明書のインストールや信頼済みサイトへの追加)を行う。
- 身分証明の登録
e-Taxの使用には事前の登録が必要。これにはマイナンバーカードを使うと良い。なお、この段階で税務署への電子申告開始届出も必要。税務署のウェブサイトにマイナンバーカードを使用してログインし、必要なフォームを送信する。
- e-Taxソフトの詳細設定
ソフトウェアのダウンロードが終われば、マイナンバーカードを使用して、ソフト内で利用者登録を行う。登録が完了すれば、追加インストールで「共通プログラム・共通帳票」もダウンロード。
- 申請書の作成
作成ボタンから「申告・申請等」を選び、青色申告承認申請書を作成していく。必要な情報を入力していくが、マイナンバーカードの情報を読み取ることで自動的に情報が転記され、手間を省くことができる。
- 電子署名と送信
作成した申請書には電子署名を施す。これもマイナンバーカードを用いて行う。署名後、ソフトウェアの「送信可能一覧」から該当する書類を選び、送信する。
- 確認と保存
送信が成功すると通知が表示される。この通知は、税務署からの受付を証明する大事な書類であるため必ず保存しておく。
提出期限に注意
青色申告承認申請書には提出期限が設けられており、期限を守らないと自動的に白色申告になってしまいます。ケースの違いによる提出期限を以下で紹介します。
- 新規開業者:開業日から2ヶ月以内に提出
- 年始に開業したケース:1月1日~15日の間に開業した場合は3月15日までに提出
- 白色申告からの切り替え:既に事業を運営していた場合、その年度の3月15日までに提出
提出期限を守らないと青色申告による税制上のメリットを受けられませんので注意しましょう。
青色申告承認申請書の作成方法
それでは、青色申告承認申請書の具体的な作成方法を紹介していきます。
まずは、青色申告特別控除を受けるために重要で、かつ理解しにくい「簿記方式の選択」と「備え付け帳簿」について詳しく説明します。
簿記方式の選択について
青色申告特別控除を受けるには、簿記方式の選択が非常に重要です。
特別控除の適用を最大限受けるには「複式簿記」を選択しないといけません。「単式簿記」だと手間は少ないものの、控除額が少なくなってしまいます。なお、それぞれの簿記方式の違いは次の通りです。
《 単式簿記について 》
単式簿記は、その名の通り、発生した取引を一つの科目にしか記帳しません。計算が容易で手軽な方式ですが、財務状況の詳細な把握はできません。
例)現金で仕入:「仕入 50,000円」
《 複式簿記について 》
複式簿記は、一つの取引を二つの勘定科目で記帳します。これにより、財務状況のより詳細な分析が可能です。
例)現金で仕入:「仕入 50,000円 / 現金 50,000円」
複式簿記では「借方」と「貸方」の項目が使われることで、資産や負債の増減、収益や費用の発生など財務の変動を表現することができます。
備付帳簿名の選択について
55万円(最大65万円)の青色申告特別控除を受けるには、主要簿の2つと補助簿を合わせた次の帳簿を選択する必要があります。
- 総勘定元帳
- 仕訳帳
- 現金出納帳
- 売掛帳
- 買掛帳
- 経費帳
- 固定資産台帳
- 預金出納帳
10万円の青色申告特別控除を受ける場合でも次の帳簿は選択しておく必要があります。
- 現金出納帳
- 売掛帳
- 買掛帳
- 経費帳
- 固定資産台帳
なお、主要簿とは「総勘定元帳」と「仕訳帳」のことです。
総勘定元帳 | すべての取引を勘定科目の種類別に分類して整理及び計算する帳簿であり、勘定科目ごとに記載の年月日、相手方の勘定科目及び金額を記載する。 |
仕訳帳 | すべての取引の勘定科目を決めるとともに、借方及び貸方に仕訳するための帳簿であり、取引の発生順に取引の年月日、内容、勘定科目及び金額を記載する。 |
そして補助簿とは主要簿の内容を具体化し、詳細に分類するための帳簿です。次のような種類があります。
現金出納帳 | 事業用の現金の出し入れの状況を取引順に記入する帳簿。現金売上や現金仕入について、売上帳と仕入帳を兼ねている。 |
売掛帳 | 得意先ごとに口座を設け、商品などの掛売りや売掛金の回収の状況を記入する帳簿。次のような場合には、この売掛帳を利用して、それぞれの口座を設けて記入することができる。① 商品を家事用に消費した場合② 商品を事業用に使用した場合③ 空箱の売却代金などの雑収入があった場合 |
買掛帳 | 仕入先ごとに口座を設け、商品などの掛買いや買掛金の支払いの状況を記入する帳簿。貸倒引当金や退職給与引当金などの勘定を設ける場合にも、この買掛帳を利用して、それぞれの口座を設けて記入することが可能。 |
経費帳 | 仕入以外の事業上の費用を、租税公課、水道光熱費、旅費交通費、給料賃金などの科目ごとに口座を設けて記入する帳簿です。費用の金額を現金で支払ったものとそれ以外のもの(例えば、小切手支払いや現物給与など)とに区分して記入することになっている。 |
固定資産台帳 | 事業用の減価償却資産や繰延資産について、原則として個々の減価償却資産ごとに口座を設けて、資産の取得及びその異動に関する事項などを記入する帳簿。 |
預金出納帳 | 事業用の銀行口座の入出金の明細を記録するための帳簿。 |
手形記入帳 | 手形1枚ごとの金額や支払期日、種類、番号、支払人、受取人などを受け取り、振り出し、決済まで記録するための帳簿 |
債権債務記入帳 | 銀行からの借入など、買掛金と売掛金以外の債権債務を記録するための帳簿。 |
入金伝票 | 現金が入ってきたときに作成する伝票。 |
出金伝票 | 現金で経費を支払ったときに作成する伝票。 |
振替伝票 | 現金の出入りがない取引が発生したときに作成する伝票。 |
現金式簡易帳簿 | 現金出納帳に経費欄を加えた帳簿。 |
他の記入欄の書き方
簿記方式と備付帳簿の選択項目以外の記入欄について、簡単にポイントを紹介します。
項目名 | 内容・注意点 |
税務署の指定 | 納税者の居住地・事業所に応じた税務署名を記入。 |
提出日の確認 | 書類を手渡しで提出する日または郵送する日を記入。 |
納税地の選定 | 納税地となる「居住地」「事業所」等を指定し、住所と電話番号も記入。 |
個人情報の記入 | 氏名、生年月日、職業を記載。事業名や店名(屋号)があれば、それも記入。 |
所得税申告の開始年 | 青色申告を始める年を記入。 |
資産・事業所の詳細 | 所得を生む資産や事業所の名称、所在地を記述。 |
所得のカテゴリー | 事業所得、不動産所得、山林所得等、該当する所得の種類を選ぶ。 |
青色申告承認の履歴 | 承認取り消しや自ら取り消した経験があれば記入。 |
新業務の開始日 | 当年度の1月16日以降に新事業を開始した場合、その日付を記入。 |
本格的に活動するなら青色申告承認申請書を提出しよう
個人事業主として本格的にビジネスを行う場合、青色申告を選択しておいた方が良いです。
税制上の優遇措置があり、税負担を減らすことが可能だからです。確かに、帳簿の記録が厳格に求められるため、経理作業の負担が増えますが、会計ソフトを使用すればその作業はずっと楽になります。
また、税務について学ぶ良い機会にもなりますし、わからないことは税理士にも相談して解決すれば良いでしょう。