自営業でも雇用契約書を作成しよう!従業員を雇うときの契約書の作成方法とは

「雇用契約書」の取り交わしは、「言った言わない」のトラブルを防ぐための重要な業務です。個人でも法人でも、その重要性に違いはありません。

中には「労働条件通知書を渡したから大丈夫」と思っている雇用主もいるかもしれませんが、後々思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。

労働条件通知書とは何が違うのか、また、雇用契約書に記載すべき事項やその交付方法などもここで解説していますのでぜひ参考にしてください。

雇用契約書の作成は義務ではない

「雇用契約書」に関しては、作成についての法律上の義務はありません。

雇われたいという応募者の意思と、雇いたいという雇用主の意思が合致さえすれば、雇用契約は結ばれたことになるのです。そのため、書面がなくても「契約の成立」は起こり得ます。

一方「労働条件通知書」は事業主が従業員を採用したときに必ず交付するものです。労働時間や賃金など、必ず記載しなければならない絶対明示事項があり、記載内容についても決まりがあります。

これは雇用契約と同じタイミングで交付されることが多く「労働条件通知書 兼 雇用契約書」という形で兼用することも問題ないため、実際にそうしている事業者も多いです。

そしてこれら雇用に関するルールは、法人だけでなく個人事業主に対しても適用される点に留意しましょう。

トラブルを避けるには契約書があった方が良い

労働条件通知書は、雇用契約書と兼用しない場合、あくまでも雇用主が一方的に交付するものです。つまり、労働条件通知書のみで「労働者と労働条件(雇用契約)の合意があった」という証明にはなりません。

そのため、労働条件通知書を渡しただけだと「この条件には合意していない」と採用した者から主張があったときに「合意済みだ」ということを証明するのは困難です。

一方、雇用契約の場合は当事者の一方が勝手に成立させることはできず、前提として「合意」が必要とされます。そのため契約書へのサイン(署名や記名押印)を付けて契約書を作成し、契約を成立させることによって、あとでトラブルが起こるのを防ぎやすくなるのです。

雇用契約書の作成方法

雇用契約書は後に署名捺印をしてもらうことを考えると、文書で作成することが望ましいでしょう。

ひな形などは様々なところで入手することができますが、こちらでも一例として作成例を提示します。

                     雇用契約書
 〇〇株式会社(以下「甲」という。)及び〇〇(以下「乙」という。)は、下記のとおり雇用契約(以下「本契約」という。)を締結する。

                        記

(雇用契約)
第1条 乙は甲の事業に関し使用されて労働すること、甲はこれに対する賃金を支払うことに合意した。
(労働条件)
第2条 賃金、労働時間、就業場所、雇用期間、退職その他労働条件については、本契約に定める他、労働条件通知書(及び就業規則)に定めるところによる。
(試用期間)
第3条 契約日より〇ヶ月間は試用期間とする。試用期間中の賃金は本採用後と同等である。
(職務専念義務)
第4条 乙は、甲の就業規則、規定、指揮命令を遵守し、誠実に職務を遂行する。
(秘密保持義務)
第5条 乙は、職務上知り得た秘密を、在職中のみならず、退職後も他に漏えいしてはならない。

 甲と乙は以上のとおり合意し、本契約の成立を証するため、本契約書2通を作成し、甲乙各自署名捺印のうえ、それぞれ1通を保管する。
 
    年  月  日
 
甲  所在地                    乙  住所
   ○○株式会社                    氏名          ㊞
   代表取締役            ㊞

記載する契約内容について

雇用契約書は法律による作成義務や明示義務項目がないため、どのような内容にするかは原則事業主の自由です。

※作成例には試用期間に関する事柄などを記載しているが、必須の項目ではない。

ただし次のポイントは抑えて作成することが望ましいです。

  • 表題に契約書であることを明記
  • 合意したい内容(労働条件など)
  • 合意したことを示す一文
  • 契約締結の日付
  • 双方の署名捺印欄

労働条件通知書には上記の項目を含める必要はありません。反対に言えば、上記項目を文書内に含めることで雇用契約書と兼用することができます。

また、従業員と交わす最初の契約書ですので、服務規程や秘密保持義務の項目などを加えることも可能です。特に、就業規則を作っていないような小規模事業では、秩序を守るために職場で守ってもらいたいことを明記しておくことも良いでしょう。

もちろん、いくら自由とはいえ、法律に違反する内容にはできません。

従業員への交付方法について

雇用契約書は署名捺印があることが望ましいため紙での運用が多くなりますが、電子印鑑や電子契約書などで取り交わすことも可能です。

しかし、労働条件通知書と雇用契約書を兼用する場合は気をつけましょう。

労働条件通知書は原則書面で交付しなければならないので、FAX、メール、LINEなどのSNSメッセージでの文書添付は当然には認められていません。

もし、書面以外での交付をしたいのであれば「雇用した者の同意」を得なければなりません。

その際は次の対応と併せることが推奨されています。

  • 出力がしやすいようにPDFなどの添付ファイルで送る
  • 受信者に文書到達を確認する
  • 文書を出力して保管することを勧める

従業員が希望していないのに一方的に書面以外の方法を取ることは法令違反です。最悪の場合は罰則もありますので、気を付けましょう。

従業員との訴訟リスクを考慮することが大事

法律で義務付けられていない雇用契約書をわざわざ作成することは少し面倒に感じるかもしれません。

しかし、労働条件をめぐって従業員とトラブルになる可能性がありますし、実際従業員と揉める使用者も少なくありません。個人事業主であってもこの点を甘く見るべきではないのです。

そのため、「とりあえず」という気持ちで入手したひな形を適当に流用したり、合意を明確に得ることなく一方的に労働者に契約書を渡すような対応は避けましょう。

逆に、バックオフィスについてきちんと理解し、契約書等の文書を作成する意義・目的を意識すれば、労使間トラブル・訴訟リスクを減らすことができるでしょう。