自営業でも労働条件通知書は必須! 従業員を雇うときに明示すべき事項や交付方法とは

労働条件は雇用した側とされた側、どちらにとっても重要なものです。労働条件を通知する方法や内容、雇用形態に応じた特記事項など、法律でも細かくルールが決められています。これを守らない場合の責任は雇い主側にあり、個人事業主であってもその責任は法人と変わりません。

この労働条件通知書の記載事項や交付時のルールなどをここで解説しています。どのような決まりがあるのか、従業員を雇用するならば必ず一度は確認しましょう。

労働条件通知書とは

労働条件通知書とは、新たに雇用契約を結んだ従業員の「労働条件」を記載した書面です。

同じように労働条件が記載されている「求人票」、同じく雇用契約時に作成する「雇用契約書」とも異なります。

求人票のように労働者募集のために不特定多数に向けた労働条件ではなく、雇入れる従業員との間で個別に決まった労働条件が記載されるのです。また労働条件通知書は、雇用契約書と兼用しない限りは、事業主が一方的に通知するものでもあります。

従業員を雇うときに交付しないといけない

労働条件通知書は、従業員を雇うときに交付することが法律で義務づけられています。また、労働契約の更新や労働条件の変更が行われるときも交付しなければなりません。

交付方法は、原則書面です。

「採用面接のときにじっくり話をしたから大丈夫」という理由で口頭のみで通知したり、「求人票と同じ」と伝えるだけでは義務を果たしたとは言えません。

これから働いてくれる従業員にとっても、口頭のみでの条件通知は不安を与えてしまいます。何よりも交付しないことは法律違反に該当し、罰則を科せられる可能性もあるため軽視してはいけません。

従業員の希望に応じてメール等でも明示できる

従業員が希望した場合に限り、通知書の交付をFAXやメール、LINEなどのSNSメッセージで行うことも可能です。

しかし、通信を用いた方法では従業員から「受け取っていない」「見つけられない」という申し出を受ける可能性も考えられます。相手に到達していなければ交付した意味もなくなってしまうので、次の対応も取り、トラブルを防ぐことが大切です。

  • 出力しやすいようにPDFなどの添付ファイルで送る
  • 受信者に文書到達を確認する
  • 文書を出力して保管することを勧める

なお「うちの会社はメール交付が原則だから」と言って、一方的に書面以外の方法をとってはいけません。従業員の同意が前提の特例だということに留意しましょう。

詳細は就業規則に任せることもできる

労働条件通知書には決められた書式がありませんので、どのような様式とするかは事業主の自由です。そのため、既に就業規則がある場合は、代わりにそれを交付することで明示義務を果たしたことになります。

しかし、ただ渡すだけではなく「雇用した者の労働条件に該当する部分を明確にすること」を忘れずに行いましょう。

労働条件通知書で明示すべき事項

労働条件通知書内に記載する項目は法律で決まっています。

必ず明示をする「絶対的明示事項」と、何かしらの定めを設けてる場合は明示をする「相対的明示事項」に分けられます。

なお、令和6年4月1日からは新たに明示事項が追加されます。

絶対的明示事項相対的明示事項
1.労働契約の期間
2.有期労働契約の更新基準
3.就業場所、従事すべき業務
4.始業、終業の時刻所定労働時間を超える労働の有無休憩時間、休日、休暇など
5.賃金(退職手当、臨時に支払われる賃金を除く)の決定、計算、支払方法賃金の締切、支払の時期昇給の有無
6.退職に関する事項(解雇の事由含む)
 (令和6年4月1日より)
7.就業場所、業務の変更の範囲
8.更新上限の有無と内容
9.無期転換申込機会
10.無期転換後の労働条件
1.退職手当
2.臨時に支払われる賃金(賞与など)
3.最低賃金
4.労働者に負担させるべき物品や費用
5.安全及び衛生
6.職業訓練
7.災害補償および業務外の傷病扶助
8.表彰、制裁
9.休職

試用期間がある場合

上記の明示事項に試用期間の有無は含まれていません。そのため、試用期間について記載しなくても法律違反にはなりませんが、試用期間が関連する項目には気を付けましょう。

たとえば、試用期間中の賃金が本採用後と異なる場合は「賃金」の条件に該当します。賞与の査定に試用期間を含めない場合なども、それぞれ明示することが必要です。

正社員を雇うときの例

実際に正社員を雇うときの労働条件通知書の作成ポイントを、絶対的明示事項に則ってご紹介します。

記載項目ポイント
労働契約の期間・期間の定めの有無を明確にする・有期契約の場合は具体的な日付と、その他の明示事項に気を付ける(契約更新の基準、更新の上限と内容、無期転換に関すること)・有期雇用特例(高度な専門職、定年後雇用)に該当する場合は別項目を設ける
有期労働契約の更新基準勤務成績や態度だけではなく、会社の経営状況や業務進捗など、考えられる理由をできるだけ挙げる
就業場所、従事すべき業務、その変更の範囲令和6年4月1日より「変更の範囲」の明示が追加される。雇入直後の場所と業務、その後の変更の範囲については「会社の定める支店」「変更なし」というように記載する
始業・終業の時刻、残業の有無、休憩、休日、休暇などの労働時間に関する項目・始業終業の時刻を明確にする・休憩は〇分と記載とする・シフト制、変形労働時間制、フレックスタイム制などの制度がある場合はその旨を記載する
賃金に関する項目基本給(月給、日給、時給)と、その他の手当は分けて記載する。特に固定残業代は説明を怠るとトラブルに生じやすいので注意
退職に関すること解雇、自己都合、定年など様々な事由を記載する。特に解雇は、どのような事由があるのかも明確にしておく。

正社員であれば賞与や退職金、社会保険の加入状況も気になるところですが、従業員にとってはどれも直接聞きづらいものです。これらの項目もあらかじめ記載しておけば、従業員も安心感を得られるでしょう。

内容が多くなってしまう場合は、たとえば「詳細は就業規則の第〇条~第〇条」「別途規定に定める」というように記載ことも可能です。

その際、就業規則の保管場所や閲覧方法も明記しましょう。

パートを雇うときの例

正社員同様、パートタイムの従業員にも当然通知書を交付します。

正社員と同じフォーマットを使用することも問題ありませんが、賃金の決定方法が時給であったり、労働時間や休日について正社員と違う条件のときは気をつけましょう。

また、パートタイムは労使ともに勘違いされることが多いですが、有給休暇や社会保険の適用、有期雇用の無期転換ルールも正社員と変わりなく適用されます。有給の付与をしないなど、法律違反となる定めをすることは厳禁です。

それから、法律で次の明示事項が追加されていることもポイントです。

  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • 相談窓口 

相談窓口とは、パートタイムで働く人の処遇等について質問や相談を受け付ける窓口のことです。パートタイム従業員の雇用環境を改善するために設置と明示が義務付けられていますので、相談担当者の氏名や役職、担当部署などを具体的に明記しましょう。

労働条件通知書を作成しないとどうなる?

労働条件通知書の交付は義務であるため、違反した場合は30万円の罰金のペナルティがあります。

また、労使トラブルのリスクを高めてしまうことも大きなデメリットです。

もし「聞いていた労働条件と違う」と言われてしまった場合、書面がなければそれを証明することはできません。労使トラブルのときの事業主側の立場は弱く、責任も重くなります。

そのトラブルを解決するためにお金や時間がかかることもが覚えておきましょう。

労働条件通知書が事実と違うとどうなる?

労働条件通知書を法律の規定通りに作成、交付したとしても、内容が事実と異なることもいけません。

このとき、雇用された従業員は即座にその契約を終了させることができます。また、もし従業員が就業のために住居を移しており、契約が終了したことで帰郷しなければならなくなったという場合、雇い主がその旅費を負担しなければなりません。

労働条件通知書を渡さないのは違法!

労働条件通知書は法律で細かくルールが決められている大事な書面です。交付義務のない雇用契約書と異なり、交付しないことは法律違反となります。

労使間トラブルに発展してしまうことで思わぬコストが生じたり、従業員の信頼を失ったり、手痛い状況に陥る可能性があります。

きちんと労働法を理解し、遵守し、従業員との信頼関係を構築しましょう。