「求人票に記載しないといけない労働条件」と「定めてはいけない労働条件」とは

街中やWebサイト、色々なところで目にする求人票ですが、法律で決められたルールがあることをご存知でしょうか?

求人票には必ず書かなければならない項目が法律で決められており、年齢や性別については禁止事項もあります。違反した場合はペナルティもあるので「詳しい内容は面接時に説明すれば良い」と軽く考えることはやめましょう。

仕事を探す方は求人票の労働条件を前提に応募しますので、採用後の条件が実体と違えばトラブルになるでしょう。それを防ぐためにも、求人票の記載や変更時は気をつけなければなりません。

この記事では、求人票の記載ルール、採用時に交付する労働条件通知書との違い、年齢と性別に関する禁止事項について、NG事例とともにまとめています。

求人票にルールがあることを知らなかったという人は、確認してみましょう。

求人票とは何か

「求人票」とは、人を雇いたいと思う事業主などが、労働条件を記載して従業員を募集するための文書です。

働く場所や賃金、勤務時間などの労働条件は仕事を探す人にとって、数多くの求人の中から自分の希望と合致する条件を検討するために重要なものとなります。

人手不足の今、求人票に提示する労働条件は事業主にとっても同様に、従業員の応募や採用を左右する重要なものだと言えるでしょう。

労働条件通知書との違い

「労働条件通知書」は、労働者に交付する、労働条件をまとめた文書です。

求人票と内容が重複するために同じものだと思われることもあるかもしれませんが、別のものです。

労働条件通知書については、採用しようとしている方に対して書面(本人が希望した場合はFAXやメールなども可)で交付する義務があります。求人票のように、仕事を探す人に広く提示する労働条件と違い、労働条件通知書は実際に労働契約を結んだ者に対して個別に交付します。

求人票と採用時の労働条件が異なることは認められませんが、労使の話合いに基づいて労働条件が変更することはあります。この場合は、求人票に記載した本来の労働条件から変わった箇所をわかりやすく明示した状態で通知します。

例えば変更が行われたことがわかりやすいように「旧」「新」などの文字を用いたり、線を引いた上で朱書きするなどの方法も可能です。

記載する労働条件は法律で定められている

求人票に記載する労働条件は法律で決められています。

当然虚偽はしてはいけませんし、曖昧な表現や事実を誇大した内容は後々の労使トラブルを招きやすいです。少し強い言い方をすれば「求人詐欺」と言われてしまうこともあります。

求人票は虚偽なく、正確かつ最新の情報に更新しましょう。

求人票への記載が必要な事項

実際に求人票へ記載しなければならない内容について、記載例とNG例をまとめました。

項目記載例NG例
従事する業務一般事務社内業務全般
労働契約期間(有無、その期間)有期雇用契約〇月〇日より1年間有り
試用期間(有無、その期間)試用期間あり(3ヶ月)有り
就業場所〇〇支社(〇県〇市〇〇)本店以外の支社いずれか
労働時間始業、終業時刻所定労働時間を超える労働の有無休憩時間及び休日終業時間9:00~18:00休憩時間12:00~13:00土日祝日、年末年始休み残業あり(月20時間程度)1日8時間、週40時間労働残業あり休日不定
賃金※賞与など臨時給を除く基本給、月額20万円固定残業代、月額5万円※超過分は別途支給(ただし試用期間中は基本給を19万円とする)月額約25万円程度支給(ただし試用期間中の賃金はこの限りではない)
加入保険雇用保険労災保険厚生年金健康保険加入あり
募集者の氏名または名称〇〇株式会社
派遣労働者として雇用する者※該当した場合雇用形態:派遣労働者
受動喫煙防止のための措置あり屋内禁煙(屋外に喫煙場所設置、喫煙可能区域内での就業無し)あり

NG例はどれも曖昧な表現でさらに詳細の情報が必要であり、法律の要件を満たしていません。

特に表現に注意が必要な項目について、以下で詳細を確認しておきましょう。

労働時間の記載

労働時間は法定通りの時間内とします。

始業と終業を明確にするだけでなく、休憩時間の記載も必要です。シフト制などで複数パターンの労働時間が想定される場合は、それぞれ明記しなければなりません。

所定労働時間を超える労働がある場合は、月の時間数の目安も記載するようにしましょう。

賃金の記載

賃金はとても重要な労働条件のひとつです。必ず時給、日額、月額などを明確にしましょう。

表のNG例のように「約」と言った、曖昧な表現や基本給と残業代の区別がつきづらい表記をしてはいけません。

トラブルになりやすいのは「みなし残業代」や「固定残業代」などの制度を導入している場合です。

基本給と必ず区別し、固定残業代の場合は何時間分を想定しているのか、超過分はきちんと支給する旨も記載しましょう。

それから、試用期間中の賃金を本採用時と異なる設定にしている事業も少なくありません。その場合は賃金の条件に該当するため、一緒に明記しましょう。

 受動喫煙防止のための措置

2020年4月1日から、求人票には「就業場所における受動喫煙防止のための措置に関する事項」の明示が義務づけられています。

比較的新しい法律上のルールですので「知らなかった」という人もまだ多いかもしれません。

例えば、事業場の敷地内に喫煙専用室がある場合は「喫煙専用室設置」というように、その有無を記載します。備考欄などを活用して、その場所での就業があるかどうかも可能な限り記載するようにしましょう。

求人票に書いてはいけない事項

上記のように求人票には「必ず記載しなければならない項目」がある一方、禁止事項もあります。

それは年齢と性別に関することです。年齢制限のある求人や男女のどちらかに限定した求人は原則禁止されています。

しかし、例外規定もあります。年齢と性別に関する禁止事項についてそれぞれ確認しておきましょう。

年齢制限の禁止について

原則、求人票には例外を除いて年齢制限を設けてはいけません。

求人票の上では年齢制限をしていなくとも、年齢を理由に採用を断ることや、本人の希望ではないのに雇用形態や職種を変更することも法に違反します。

「年齢ではなく、労働者の個人の能力や適正から判断して採用活動を行いましょう」というのが法律の趣旨です。

例えばきつい体力仕事が想定される場合では高齢者はどう考えても厳しいだろう、と思うこともあるでしょう。反対に、ある程度の経験値を求めて採用をしたいために、◯歳以上など下限を設けたいということもあるかもしれません。

ですが、このような事情であっても年齢制限は禁止です。

体力や経験値、技術力には個人差が大きく、年齢だけを基準として一概に判断されるべきではありません。

例外的に認められるケースは次のような場合です。

例外事由NG例
定年年齢未満を無期雇用として募集定年を65歳に設定している会社で、65歳未満の者を募集定年が65歳だが、60歳未満の者を募集すること
「◯歳以上」など下限を設けること
法律で年齢制限がある業務危険有害業務、警備業務など法律で就業が18歳以上とされているため下限を設ける
長期キャリア形成のため新卒者などを無期雇用として募集①新卒者などの若年者を無期雇用として募集
②職業経験を問わない
③新卒者以外のものについて、育成体制や配置などの処遇を同等にすること
有期雇用とすること職務経験を要する資格保持を必須とすること
技能の継承のため、特定の職種、年齢層に限定して無期雇用として募集①30歳〜49歳のうちの特定の5〜10歳幅の年齢層に限る
②同じ年齢幅で上下の年齢層と比べて、労働者数が2分の1以下である場合
15歳の年齢幅で募集をすること
他の年齢層と比べて該当年齢層の労働者数が2分の1となっていないとき
芸術・芸能分野の表現のため演劇の子役として上限年齢を設定することイベントコンパニオンとして上限年齢を設けること
①60歳以上の高年齢者
②就職氷河期世代や無業者
③特定の年齢層の雇用を促進する政策を活用する場合
60歳以上の者を募集
就職氷河期世代の者を募集
人材開発支援助成金の対象者として、15歳以上45歳未満の人を募集すること
60歳以上70歳以下というように上限年齢の設定は不可
左記助成金で15歳以上30歳未満で募集すること

性別を理由とする差別の禁止

労働者の募集や採用について、性別を理由とした差別は禁止されています。

例えば「男性限定」などのように男女のいずれかを排除したり、「女性は未婚に限る」など採用の条件や採用試験の合格基準を男女で異なるものとしたりすることです。

また、労働者の身長や体重、体力などを要件とすることや、直接性別に関わることではありませんが転居を伴う転勤に応じることを条件とすることも、合理的な理由がなければ法に違反する間接的な差別に該当します。

しかし「ポジティブ・アクション」を行うことは問題ありません。女性労働者が男性労働者の4割を下回っている男女格差のある職場において、女性に絞った求人をすることは男女格差を解消することに繋がるからです。

その他にも、芸術・芸能の分野において表現のために男女のいずれかに限定したり、守衛や警備業務のうち防犯上男性に従事させることが求められたり、労基法上女性に就業制限のある業務などは、例外とされます。

求人票の作成について違反をしてしまったときのリスク

求人票に誤解を与えかねない表現、法律の要件を満たさないあるいは違反する内容を記載してしまうと、職業安定法違反として6ヶ月以内の懲役または30万円以下の罰金が課せられる可能性があります。

それだけ求人票の記載や、労働条件の明示は重大なものです。

また、こういった罰則だけではなく、もし求人票の労働条件を巡って従業員とトラブルになってしまうと、せっかく時間をかけて採用をしたのにすぐに辞められてしまう結果となったり、意図しない形で悪評が広められてしまうことも考えられます。

個人事業主だからといって企業より要件が緩和されることはありません。雇用に関しては企業と同水準で法令遵守を徹底しなければなりません。