業務委託と従業員の雇用はどっちがいい?個人事業主から仕事を頼む方法と特徴
個人事業主は事業のすべてをひとりで行うことが多いです。しかし、事業が忙しくなってくると、事務処理や慣れない仕事に時間が取られることもあるでしょう。
事業の拡大、業務効率、本業への集中などを考えたとき、人に仕事を任せることは一つの手段です。個人事業主であっても従業員を雇用することはできますし、業務を外注することもできます。
この方法は「雇用」「業務委託」として区別されており、異なるルールが適用されます。
この記事で、2つの違い、それぞれのメリットとデメリットについて解説しています。一度確認しておきましょう。
雇用と業務委託の違い
雇用と業務委託は「使用従属性」と「労務対償性」の2つが、判断の重要なポイントです。
- 「使用従属性」
仕事を受ける側が業務についてどの程度指揮監督を受けるのか、というところで判断。例えば、働く時間や場所、仕事の方法や途中経過について、使用者側の指示が強く反映されたり、依頼された仕事を受けるかどうかの選択の自由がない場合は、使用従属性が高い。「他の労働者と比較して、どの程度拘束力が強いのか」というところも重要で、拘束力のあり・なしで一概に決まるものではない。 - 「労務対償性」
仕事の成果として支払われる報酬の対価が、指揮命令の下で、一定時間労務を提供することにあるかどうかで判断。雇用の場合、仕事の成果に関わらず労働者が仕事に従事した時間に応じて給料を払うため「労務対償性が高い」と言える。
よって、「雇用」の場合はこの2つの要素が強く、反対に「業務委託」は弱くなるのです。
次の表も確認してみましょう。
使用従属性 | 労務対償性 | |
雇用 | 指揮命令を受けて働く仕事への拒否権は原則なし時間や場所の拘束を受ける | 一定時間労務に従事することで報酬が支払われる欠勤などの控除がある残業などの手当がある |
業務委託 | 指揮命令を受けない仕事を受けるかどうかは自由業務の方法、時間や場所などを自由に決められる | 従事した時間に関わらず、報酬が支払われる |
なお、この雇用と業務委託の判断においては、契約書のタイトルではなく実際にどのように働いているかが見られます。「業務委託契約」という名称で、契約を締結していたとしても、雇用と実態が変わらない場合は雇用契約として扱われるので注意が必要です。
個人事業主が従業員を雇用するケース
雇用にフォーカスして、メリットやデメリット、注意点などを紹介していきます。
雇用のメリット・デメリット
事業主側のメリットとデメリットは次のようなものが挙げられます。
メリット
- 幅広く業務を依頼できる
- 従業員に経験を積ませることができる
- 労働時間、場所、方法について細かく指示ができる
- 外注では高額になる専門的な業務が賃金内で行える
デメリット
- 労務管理が必要
- 労働基準法などを遵守しなければならない
- 賃金や社会保険などの人件費コストがかかる
事業主側には従業員に対する指揮命令権があるので、業務の方法などに細かく指示出しをしたり、チェックをしたりすることができます。そのため、完成物などについては一定の水準が確保しやすいとも言えるでしょう。
従業員に経験やノウハウが蓄積されることで、効率があがることにも期待ができます。
一方で、従業員が働いた分の給料を支払わなければなりませんので、人件費で大きなコストが発生しやすいです。
雇用をするときの注意点
雇用についてはいくつか注意点があります。
まず、従業員は労働基準法の保護を受けるので、事業主側は労働関連法を遵守しなければなりません。解雇制限がかかりますので、事業主は従業員を簡単に解雇できなくなります。
また、様々な労使トラブルも起こり得ます。労働基準法などの労働法には、弱い立場にある労働者を守るための規定が多く置かれていますので、法律上は使用者側の責任が重くなる傾向にあります。
そのため、日々の労務管理や、雇用契約書や就業規則などの事前の取り決めが非常に重要です。1人でも従業員を雇う場合はきちんと整備しましょう。
従業員を雇用する方法
雇用する方法には様々な手段があります。
近年ではインターネットの求人広告もよく見られますが、店頭募集、知り合いからの紹介など募集方法は自由です。幅広く募集したい場合は、管轄のハローワークに依頼して、求人を出すのもよいでしょう。
しかし、昨今はどの業界でも人材不足の傾向にあります。
個人事業主の場合、他の大手企業や法人と並んでの人材獲得競争の中では、信用面が弱いことから、苦慮することが多いと言えます。募集者の目に留まったり、雇用した従業員に長く勤めてもらう工夫が必要です。
適切な労務管理を行うことは、従業員を大切にしていることをアピールすることにもなりますので、雇用後の労務手続きもきちんと行いましょう。
雇用後に必要な手続きとして、代表的なものは次の通りです。
- 雇用契約書の取り交わし
- 労働保険や社会保険への加入
- 帳簿の整理(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、有給休暇管理簿)
- 労働保険の年度更新
従業員がひとりでもいれば、労災保険に加入しなければなりません。
しかし、健康保険と厚生年金などの社会保険や、雇用保険は、事業の種類や規模、労働者の働き方によって加入するかどうかが異なります。今の状況に照らしての判断が必要です。
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個人事業主が業務委託で外注をするケース
仕事を依頼する手段は、雇用だけではありません。
雇用すると従業員に給料を払い続けることになり、社会保険などの諸手続きも必要となるため、ハードルが高いと感じる人も多いのではないでしょうか。
それでも、一時的にでも人の手を借りたいという状況もあるかと思います。そこで業務委託という方法についても検討しましょう。
業務委託のメリット・デメリット
事業主側のメリットとデメリットは次のようなものが挙げられます。
メリット
- 労務管理が不要
- 社会保険などのコスト軽減
- 労働基準法を遵守する必要はない
- 業務が発生するときだけ依頼できる
デメリット
- 社内にノウハウや経験が蓄積しない
- 委託したい条件とのマッチングが必要
- 専門性の高い業務を依頼する場合は、かえって報酬が高くなる
- 業務単位で契約するため、汎用的に仕事をさせることはできない
業務委託の場合、必要なときだけ仕事を依頼できるので、雇用する場合と比べてコストが抑えられることが何よりもメリットです。
一方で、受託者側は原則として発注者側の指揮命令を受けません。事細かな指示出しや、働く時間や場所を強い力で拘束することはできません。
業務委託をするときの注意点
業務委託の場合、提供される条件やサービスは、仕事を受注する側によって異なります。自分の条件にあった発注先を探したり、良いと思う人がいても条件が合わなければ交渉が必要です。
加えて、受注者側には仕事を受けるかどうかの自由があるので、一方的に条件を提示するだけでは、仕事を受けて貰えない可能性も注意しましょう。
しかし、一番気を付けなければならないのは「偽装請負」にならないようにすることです。
先にも書いたとおり「雇用か業務委託か」というのは、働いている実態で決まります。業務委託契約として契約を結んでも、実態が雇用と変わらなければ、従業員とトラブルになる可能性があります。
もし「実態は雇用である」と判断されてしまった場合は、残業や深夜労働分の割増賃金、有給休暇などの支払が生じる可能性があります。十分気を付けましょう。
業務委託をする方法
雇用同様に、業務委託にも様々な方法があります。
今はクラウドソーシングサイトなどもあり、仕事の受発注について簡単にマッチングすることができます。特別な手続きは必要なく、双方の合意があればどんな人でも自由に締結できますので、雇用よりはハードルが低いです。
しかしながら、トラブル回避のために業務委託契約書をもって契約を締結することや、独占禁止法や下請法に抵触しないように気を付ける必要があります。
雇用と業務委託を選ぶときの判断ポイント
雇用と業務委託は「人に仕事を依頼する」という点で似ていますが、異なる仕組みであり、異なる法制度が適用されます。
実際に雇用か業務委託かを判断するには、自分自身の今の状況や、将来の事業展望などを考えるとよいでしょう。
例えば、事業収入が安定せず、今後の展望についても不透明な部分がある場合は、業務委託で単発的に人の手を借りることもおすすめです。
従業員の雇用はコスト面でハードルが高いかもしれませんが、長期的に人材を育成すれば、業務のノウハウが事業に蓄積されていきます。労働力が確保されることで、事業拡大にも期待できます。
しかし、従業員を雇用する場合は、労務管理が恒常的な業務として発生します。「知らなかった」という理由で手続きや管理を怠ると、せっかく雇用した従業員に不信感を与えてしまって、定着しない可能性もあります。
もし従業員の雇用をするなら、基本的な労務知識を持つように心がけましょう。