個人事業主もしないといけないパワハラ防止措置とは|4つの義務と取組例を紹介

ハラスメント防止法により、従業員を雇用する全ての事業者に「パワーハラスメント防止措置」が義務付けられました。個人事業主も例外ではありません。

この法律の目的は「従業員にとって働きやすい職場を作ること」にあります。

適切に実践することで人手不足問題にもプラスの効果が期待できますし、「法律の義務だから」という理由だけではなく、ぜひ前向きな姿勢で取り組みましょう。

この記事では、パワハラ防止措置で行わなければならない4つの義務と、個人事業主が取り組むときの具体的な例を紹介しています。

義務①パワハラ防止に対する方針を明示する

1つめの義務は「事業主のパワハラ防止に対する方針を明示すること」です。

事業主から管理職を含む従業員へ、以下の内容を周知します。

  • パワハラを職場で行ってはいけないこと
  • 行為者に対して厳正に対処すること

どのような行為がハラスメントに該当するかを、従業員に知識として教えることも重要です。

パワハラは法律上の定義がありますが、中にはこれを知らず、従業員が自己判断をしてしまうケースもあるでしょう。

例えば「自分がされても平気だから問題ない」と個人の基準で考えてしまう事例は少なくありません。

反対に「ハラスメントになってしまうのではないか」と必要以上に委縮してしまい、業務に必要な指導や指示ができなくなることもあります。

そこで従業員には事業主の方針や制裁だけではなく、防止に取り組む意義やその内容も伝える必要があるのです。

具体的な取り組み例

会社で既に就業規則を作成している場合、規則の中にパワハラ防止に関する規定を加えることが取り組みの1つとして挙げられます。この方法は、行為者に対しての制裁規定も相互に関連づけられる点がメリットです。

就業規則は職場のルールブックですので「会社で禁止されている行為であること」「制裁処分があること」を同時に従業員に示すことができます。

しかし、就業規則は従業員が常に10人未満の事業場には作成義務がありません。

個人事業主の場合、法律上の作成義務がない小規模な事業場のケースが多いでしょう。

この場合は、就業規則ではなく「パワハラ防止規定」として個別に作成することも検討してみましょう。

また、規定を作成する時間や費用にコストを割くことが難しいなら厚生労働省が発表しているガイドラインなどを活用するとよいでしょう。

参考:厚生労働省委託、ハラスメントに関するポータルサイト「あかるい職場応援団」(URL:https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/

上記ポータルサイトでは、会社が行うパワハラ対策に役立つ次の資料をダウンロードすることができます。

  • 事業主からのトップメッセージ雛形
  • 他企業のパワハラ対策事例
  • 人事担当者向けパワハラ対策マニュアル
  • 従業員研修で使用できる資料
  • 社内掲示用ポスター

どれもすぐに使えるものばかりですので、忙しい個人事業主でも簡単に取り組める点がメリットです。

資料を活用すれば、専門家の力を借りなくても個人事業主自身で、法律に基づいた防止措置を取ることができるでしょう。

義務②相談に対応するための体制を整える

2つめの義務は「従業員が相談できる窓口の体制を整えること」です。

形式的に設置をするのではなく、いざ相談があったときに相応しい運用ができるように、次の点に留意しましょう。

  • 従業員へあらかじめ存在を周知しておく
  • 広く相談に対応すること(ハラスメント発生のおそれがある場合、該当するか微妙な場合など)
  • 窓口になる者のために事前にマニュアルを準備し、それに基づいた研修を行う

相談窓口の設置は、社内であることや対応人数が法律で限定されていません。相談しやすい環境整備として、社外にも相談窓口を設けたり、性別を考慮して複数人で対応する取り組みも推奨されます。

具体的な取り組み例

ハラスメントは複数の要因によって起こることが考えられるので、相談窓口はパワハラ相談に限定せず、セクハラやマタハラなどの相談も兼ねることが望ましいです。

個人事業における実務では、個人事業主自身が相談窓口となることが多くなるでしょう。

しかし、事業主に直接相談すること、お互いの性別、小規模事業場で人間関係が限定的であるなど、様々な要因によって心理的に相談しにくいことが想定されます。

そのため、複数人で相談窓口の担当者となることや、社内に限らず次のような外部相談窓口を活用することも検討しましょう。

  • 弁護士、社会保険労務士事務所
  • ハラスメントに関する相談窓口代行業者

また、中には相談を受けた時点で、被害者が深刻な鬱状態に陥っている可能性も考えられます。

希死念慮に関する発言が見られ事態が深刻なときは、社員の健康状態について相談できる外部の専門家も活用しましょう。外部機関との連携に関してあらかじめマニュアル内で決めておけば、スムーズに対応することができるでしょう。

義務③パワハラ被害者・行為者への適切な措置

3つ目の義務は「パワハラ行為への事後の迅速かつ適切な対応」です。

パワハラ行為や疑わしい事案があったとき、被害者と行為者の双方への事実確認を迅速に行わなければなりません。

もしハラスメントが確認できた場合は、被害者への配慮措置、行為者への適正な措置を行います。

事後対応では再発防止を行いますが、これはハラスメントの事実が確認できなかったとしても、行わなければなりません。

再発防止は、1つ目の義務である方針の明示、そして管理職も含む従業員への周知や啓蒙を再び行います。

この一連の措置は、従業員の安全配慮義務を負う事業主にとって、注意深い対応が求められる場面です。

相談があったのにも関わらず、事実を確認せずに数ヶ月放置することは事態を悪化させます。

最悪の場合は事業主にも責任が追及され、損害賠償を支払う可能性もあるので、適切に対応しましょう。

具体的な取り組み例

相談があったときは、まずは被害者の話を注意深く聞きましょう。その後、関係当事者へ事実を確認します。

聞き手側の姿勢について、事前にマニュアルを準備、研修を行っていれば急な相談も安心です。

もし、行為者が外部の人物であっても、従業員と同様に行わなければなりません。

確認の結果、双方の意見が食い違うこともあるでしょう。その場合、公平な立場の第三者にも事実確認を行いますが、対応には注意が必要です。当事者以外に聞き取りを行うことは、無暗に話を広げてしまうおそれがあるためです。

当事者にとってそれが不本意である可能性もあるため、事前に確認を取り、第三者にも守秘義務について理解をしてもらいましょう。

また、個人事業主自身が話を受けたとき、経営者としての裁量で問題解決を行うことは適切ではありません。

一方の話だけを聞いて、被害者に対し「君が我慢すれば問題ない」「君にも悪いところがあった」と一方的に判断することや、行為者に対して「今回は謝っておいて」と有耶無耶に解決することは事態を悪化させる可能性があります。

義務④パワハラ相談で不利益を受けない旨の周知など

4つめの義務はこれまでの3つの義務と併せて、次の措置を講じることです。

  • 相談者・行為者のプライバシーの保護
  • 相談をしたこと、事実確認に協力したことなどを理由に解雇や賃金の低下など、労働条件に不利益な扱いをしないことの周知

当然ですが、相談をした従業員や事実確認に協力した者に対して、それを理由に労働条件を低下させることや制裁、解雇処分は決して行ってはいけません。

上記のポイントは、防止措置の各所で周知して、取り組んでいきましょう。

具体的な取り組み例

1つめの義務である「パワハラ防止に関する方針の明示」や、相談窓口を従業員に周知するときに、上記の内容を組み込むことができます。

また、実際に相談があったときや事実確認を行うときなど、ハラスメント対応の随所で実施しましょう。これらが伝わることは、パワハラ行為や防止措置に関わった全ての従業員にとって安心できることです。

相談を受けてから解決までの流れ

実際に相談を受けてから解決までの一連の流れと、対応のポイントを確認します。

流れポイント
相談窓口は事前に周知しておく社内外、あるいは性別に配慮して複数人設置する相談者にプライバシーが守られること、不利益な扱いをしないことを伝える相談を受けるときは、プライバシーに配慮して個室などで行う
事実確認相談者の了解を得た上で、行為者に事実確認を行う必要があれば職場内の第三者や、職場外の関係取引先にも事実確認を行う
措置の検討・実施被害状況を整理するパワハラの認定を行う就業規則などにおける制裁規定に基づき対処を行う
被害者へのフォロー相談者に会社の取り組みを説明する行為者には再発防止向けてフォロー、研修を行う
再発防止措置パワハラ防止について従業員への研修の実施事業主からパワハラ防止に関する方針などのメッセージを配信する取組の定期的な検証、見直し
その他併せて講ずる措置当事者のプライバシー保護のための措置を講ずる不利益扱いはしないことの周知、啓蒙をする

なお、パワハラの認定は判断が難しいケースが多くあります。判断には慎重さが求められますので、1人で抱えきれないときは外部の専門家や公的機関の相談窓口なども活用しましょう。

まずは内部で適切な一次対応を行い、外部とスムーズに連携ができれば、迅速な解決に繋がります。

まとめ

パワハラ問題が実際に起こってから対応するのではなく、事前と事後の適切な対応が法令により求められています。

最終的には外部の専門家の力を借りることもありますが、まずは事業主自身がハラスメントへの理解を深めて、従業員に誠実な対応を示しましょう。

従業員にとって魅力ある職場を提供することで、人材定着の効果なども期待できます。