個人事業主と法人の違い|開業手続や運営方法、税金の負担などを比較
個人事業主と法人には、設立手続や税金の負担など様々な違いが存在します。
本記事では、事業立ち上げにあたって事業主体の検討をしている方、あるいは法人成りを検討する個人事業主などを対象に、個人事業主と法人の違いを紹介していきますので、参考にしていただければ幸いです。
開業の手続と費用が違う
まずは、開業する際の手続きと費用の違いを見ていきましょう。
個人事業主の開業手続と費用
個人事業主として開業する場合、最低限必要な手続きは税務署への「開業届」の提出です。
この開業届は、事業を開始した日から1ヶ月以内に提出する必要があり、費用はかかりません。
ただし、特定の事業を行う場合、例えば飲食店や運送業など、行政機関からの許認可や登録が必要になることがあります。これらの許認可を得るためには、別途数千円から数万円の手数料が発生する場合があります。
法人の開業手続と費用
法人、特に株式会社を設立する場合、手続きはより複雑で費用もかかります。
まず、事業の目的や資本金などを定めた「定款」の作成が必要です。定款は公証人の認証を受ける必要があり、これには認証手数料がかかります。
次に、設立者または株主からの出資が行われ、最後に設立登記を行います。設立登記には登録免許税が必要で、会社設立に必要な書類の取得にも費用が発生します。
また、株式会社や合同会社の場合、資本金の額によって登録免許税の金額も変わります。
なお、特定の業種に関して許認可が必要になる点は個人事業主と共通しています。
意思決定の方法が違う
事業を運営する上で、意思決定のプロセスはとても重要です。個人事業主と法人では、この意思決定の方法に大きな違いがあります。それぞれの事業形態における意思決定方法の特徴と、その違いについて詳しく見ていきましょう。
個人事業主の意思決定方法
個人事業主の場合、事業主自身が意思決定を行うため、意思決定の柔軟性と迅速さがとても高くなります。
新しい事業機会に対してすばやく対応したり、ビジネス戦略を迅速に変更したりすることが可能です。
また、意思決定プロセスが単純で、複雑な手続きや承認を必要としません。ただし、全ての責任が事業主自身に集中することになります。
法人の意思決定方法
株式会社の場合、意思決定プロセスは一層複雑になります。
株主総会や取締役会など、多様な組織内部の構成要素がそのプロセスに深く関わってくるからです。
株主総会では、株主の投票によって会社の基本方針や重要事項の決定が行われる一方、取締役会では日常運営に関するより具体的な意思決定が進行します。
このように、個人事業主と比較して意思決定には時間がかかることもありますが、その分、多角的な視点を取り入れたバランスの良い決定が期待できるのです。
また、組織の規模が大きくなるにつれて、意思決定プロセスはさらに複雑になります。大企業では、多層的な管理構造や多数の部署が関与するため、意思決定にはさらに時間がかかります。
バックオフィス業務の内容や量が違う
個人事業主と法人では、バックオフィス業務の内容やその量にも違いはあります。個人事業主は、一般的に事業の規模が小さく、従業員を雇用することも少ないため、法人と比べてバックオフィス業務はそれほど複雑なものではありません。
以下で、バックオフィス業務における違いを見ていきます。
個人事業主 | 法人 | |
税務 | 所得税の確定申告が主で比較的簡易。 | 比較的多くの書類が必要な上、法人税のほか法人住民税や法人事業税に関する申告作業なども発生する。 |
厚生年金保険・健康保険 | 一般的に国民年金、国民健康保険に加入する。5人以上の従業員がいるなどの条件に該当する場合には従業員のための加入が必要。 | 従業員の数に関係なく加入が必要。 |
労働保険 | 従業員がいる場合、加入が必要。 | 従業員がいる場合、加入が必要。 |
個人事業主のバックオフィス業務
個人事業主のバックオフィス業務は比較的シンプルです。
税務の面では、個人の所得税申告が主となり、その申告書類は比較的簡単に作成可能です。
社会保険に関しては、従業員を1人でも雇っていると労働保険(労災保険・雇用保険)の加入が義務となりますが、一定数以上の従業員がいるなどの場合を除き、労災を除く社会保険は任意加入です。
そして個人事業主自身は一般的に国民健康保険や国民年金に加入することになります。
法人のバックオフィス業務
一方で、法人のバックオフィス業務はより複雑で量も多くなります。
税務関連では、個人事業主よりも多くの種類の税務書類を作成したり、高度な知識が必要となるため、専門家へ依頼するケースが多くなります。
社会保険に関しては、役員自身についての健康保険・厚生年金保険への加入が必要となるため、従業員がいない場合でもこれらの加入手続が発生します。労働保険に関しては、個人事業主と同様に、従業員を雇っている場合のみ加入義務が発生します。
適している事業・組織の規模が違う
個人事業主と法人では、適している事業規模や組織の構造が異なります。それぞれの事業形態の特性を見ていきます。
個人事業主としての適切な事業規模
個人事業主は、事業規模が小さい場合に適しています。
特に、少人数で運営可能な事業や外部委託で対応できる業務、あるいは事業主自身が主力となって業務を行う場合が一般的です。
しかし、事業規模の拡大に伴い、より多くの資源や人員が必要になった場合には、個人事業主の形態では限界に達することもあり得るでしょう。
法人としての適切な事業規模
一方、法人(特に株式会社)は規模の大きな組織を運営したり、規模の大きな事業を始める場合にも適しています。
株式の発行や銀行からの大規模融資が可能であるため、個人事業主と比べて資金調達が容易である点は、大きな利点となります。
さらに、多数の従業員を効率的に管理し、複数の部門や幅広い事業活動を運営するための体制も、より構築しやすくなります。
事業の特性、将来の拡大可能性、資金調達の必要性を総合的に考慮し、最適な事業形態を選択することが重要です。
税金の負担が違う
個人事業主と法人の大きな違いとして、税金の負担が挙げられます。以下の表で示したように、支払う税金の種類や経費に計上できる項目も異なります。詳しく見ていきましょう。
項目 | 個人事業主 | 法人 |
課税される税金 | 所得税 | 法人税 |
税率 | 5%〜45%(累進課税) | 15%〜23.2% |
経費計上の幅 | 比較的狭い | 広い |
個人事業主の税金負担
個人事業主が支払う税金は所得税が主体で、累進課税により収入が増えるほど税率も上昇し、最高税率は45%となります。
利益に基づいて計算されるため、利益がなければ税負担も発生しません。経費計上は、事業に直接関わる費用に限られ、範囲は狭めです。
法人の税金負担
法人の税金は法人税が中心で、一律の税率が適用されます(15%〜23.2%)。
利益がなくても法人住民税に関して税金が課せられますが、経費計上の幅は広く、実質的な税負担の軽減が可能です。例えば経営者自身の報酬や退職金、健康診断費などは個人事業主だと経費計上ができませんが、法人となることでこれらの費用も経費として計上することができます。
また、損益通算が法人では10年間、個人事業主では3年間となっており、法人の方が長期にわたる損益の調整に有利です。
社会的な信用力が違う
事業を運営していく上で、取引先や営業先からの信用はとても重要なものです。以下では、個人事業主と法人の信用力の違いについて解説していきます。
個人事業主の社会的信用力
個人事業主の場合、事業の信用力は主に事業主の個人的な信用に依存する傾向にあります。
法人の設立には登記が必要で、会社の重要事項などを取引先や営業先が確認することができます。しかし、個人事業主の場合には登記による確認ができません。また、資本金の出資などもないこともあって、法人と比べて信用力が低くなってしまうのです。
法人の社会的信用力
一般的に見ると、法人は個人事業主よりも社会的信用力が高いとされています。その主な理由は、法人が会社法に則った明確な法的枠組みの下で運営されていることにあります。
この枠組みは、透明性や信頼性を高め、法人の活動に対する社会的な認識を向上させているのです。
また株式会社だと外部からの監査を受けるケースもあり、決算情報の公開なども行っています。
このような理由もあり、法人は個人事業主と比べて取引先や金融機関からの信頼を獲得しやすくなっているのです。
個人事業主と法人それぞれに利点がある
個人事業主と法人は、それぞれ異なる特徴と利点を持っています。
個人事業主の利点
- 柔軟性と迅速性: 個人事業主は、意思決定が迅速であり、ビジネスモデルの変更や市場への対応も柔軟にできる。
- 開業の容易さ: 手続きが簡単で、開業にかかる費用も少ない。
- 税務上の利点: 所得税の累進課税制度により、利益が少ない場合は税率も低くなる。
法人(株式会社)の利点
- 社会的信用力: 法人は個人事業主と比較して社会的信用力が高いため、資金調達や取引の開拓が有利です。
- 責任の限定: 株式会社や有限会社の場合、責任は出資額が上限となるため、個人のリスクが限定されます。
- 税務上の利点: 法人税は一律の税率が適用され、経費計上の幅も広い。
個人事業主は、小規模ながらも柔軟な運営をできるのが魅力の1つです。
一方で、法人は社会的信用力が高く、大規模な事業展開にも向いていると言えます。
事業が成長し、その規模が拡大する過程で事業形態を変更することも検討してみると良いかもしれません。