個人事業主が青色申告を選択するメリット(税制上の特典や帳簿付けの利点など)

確定申告をする方法には2種類があります。青色申告と白色申告です。

青色申告には税制上のメリットが多く、その優遇処置を受けるために多くの個人事業主は青色申告を選択しています。本記事ではそのメリットの詳細をご紹介しますので、申告方法選択の参考にしてください。

税制上の4つの特典

青色申告を選択すると、税制上の優遇措置として以下4つの特典を受けることができます。

  1. 青色申告特別控除の適用を受けることができる
  2. 青色事業専従者給与を経費にできる
  3. 純損失を翌年以降に繰越す、もしくは前年度に繰戻しできる
  4. 貸倒引当金を必要経費にできる

上記の特典を受けるための要件などもありますので、以下でわかりやすく解説していきます。

最大65万円の特別控除を受けることができる

青色申告のメリットの一つは「最大65万円の特別控除」が利用できる点にあります。

青色申告特別控除を利用することで、収入から差し引ける特別な控除が受けられ、結果的に支払う税金が減少します。65万円・55万円・10万円の控除額がありますが、それぞれ適用を受けるための条件が異なります。

控除額必要条件
65万円1. 事業所得または事業的規模の不動産所得あり2. 複式簿記による記帳3. 青色申告決算書(貸借対照表と損益計算書)の提出4. 確定申告の期限厳守5. 現金主義特例を選択していない6. e-Taxによる申告または電子帳簿保存法に基づく帳簿保存
55万円上記の65万円控除の要件の6以外を満たしている
10万円上記の55万円控除の要件を満たしていない※損益計算書の提出は必要

65万円の控除を受けるための、詳細なポイントについて以下で解説します。

事業所得または事業的規模の不動産所得が必要

不動産所得について65万円控除または55万円控除を受けるには、事業的規模の不動産所得が必要です。

不動産所得の「事業的規模」の該当性に関しては、”賃貸されている家屋が5棟以上、またはアパート等の賃貸部屋が10室以上ある場合”が目安とされています。事業的規模に満たない不動産所得の場合は、10万円控除となります。

e-Taxによる申告または電子帳簿保存

65万円控除を受けるには、e-Tax(電子申告)での申告を行うか、または電子帳簿保存法に基づいて「優良な電子帳簿※」として帳簿を保存している必要があります。これを行わない場合は、控除額が55万円になります。

 ※優良な電子帳簿:電子帳簿保存法に定められている電子帳簿の基本要件に加えて、以下の要件を満たすもの。

  • 訂正等の履歴が残っている
  • 記帳間で相互に関連性がある
  • 日付・金額・相手方による検索機能がある

また、65万円の特別控除を受けるには事前に以下いずれかの届出が必要。

  • 国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書
  • 国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る65万円の青色申告特別控除・過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出

家族を雇用することで給与を経費にできる

青色申告を行う事業者が、家族を事業に専従させて給与を支払った場合、その給与を経費として計上することが可能になる、特別な制度があります。

これは「青色事業専従者給与」と呼ばれ、適用を受けるためには次の条件をクリアする必要があります。

  • 給与の受取人:事業者の配偶者や親族で、事業者と同じ生計を立てている。
  • 年齢:15歳以上で学生でないこと。他の仕事を持っている人も対象外。
  • 専従期間:事業者の事業に6ヶ月以上専従している。短期間の手伝いでは適用外。
  • 給与の妥当性:支払われる給与は、その労務の対価として妥当な金額である必要。

届出が必要

青色事業専従者給与の特例を受けるためには、事前に税務署への届出が必要です。この届出を行うことで、条件を満たす家族への給与を経費として認めてもらうことができます。

白色申告との違い

青色申告と白色申告では、家族への給与を経費に算入できる条件や金額に差があります。青色申告では、条件を満たせば実際に支払った給与全額を経費にできますが、白色申告では事業主の配偶者には最大86万円、それ以外の専従者には一人あたり50万円、または事業所得を専従者の数に1を足した数で割った金額のどちらか低い方が経費に算入できる金額となります。

損失を翌年移行に繰越して所得控除ができる

ある年に赤字(損失)が出た場合でも、その損失を翌年移行の3年間にわたって繰越して、利益から差し引くことができます。この特典があることで、赤字分を将来の利益から差し引くことが可能になります。

例えば、事業開始1年目は100万円の赤字で2年目は50万円の赤字であったとします。3年目に150万円の黒字を出しても、1年目と2年目の赤字の額を差し引くことで、3年目の所得が0円にできます。ただし、赤字の年に青色申告によって損失を申告している必要があります。

また、赤字を過去の利益と相殺して、過去に支払った税金を還付してもらう「繰戻し」も可能です。この場合、「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を提出することで、前年(事業の全部を譲渡や廃止などした場合は前々年)の所得税に対して還付を受けることができます。ただし、還付を受けるためには、繰り戻しを行いたい年も青色申告をしている必要があります。

なお「損失の繰越し」と「繰り戻しによる還付」はどちらか一方しか選べません。

売掛金などの損失の見込額を経費にできる

4つ目の特典は「貸倒引当金を経費に計上できる」という内容です。

個人事業主が商品やサービスを提供し、その代金を後日受け取る「掛け売り」取引をした際、取引先の経済状況が悪化し、約束された代金が回収できない事態が発生する可能性があります。このリスクに備えるために、予め一定額を「貸倒引当金」として経費に計上することができるのです。 

貸倒引当金を設定できる対象には、以下のようなものがあります。

  • 商品の販売やサービスの提供によって生じた売掛金
  • 受取手形
  • 事業上の貸付金

必要経費として計上できる額は、12月31日に残っている売掛金や貸付金の合計額の5.5%(金融関係3.3%)です。

青色申告のデメリットは帳簿付けの作業のみ

青色申告のデメリットと呼べるものは、「帳簿付けの作業」が複雑である点のみです。例えば次のような経理業務が発生します。

  1. 取引の発生
  2. 記帳する:日々の取引を正確に記帳し、帳簿や書類を一定期間保存する。
  3. 帳簿を締める:毎月、または四半期ごとに帳簿を締め、残高を計算する。各勘定科目の残高をまとめた試算表を作成し、貸借一致を確認する。
  4. 決算を行う:1年間の取引をまとめ、損益計算書及び貸借対照表を作成する。
  5. 確定申告をする:損益計算書及び貸借対照表に基づいて確定申告書を作成し、申告する。

しかし、その負担も会計ソフトを使用することで大幅に軽減できます。日々の取引を会計ソフトに入力するだけで自動的に必要な財務諸表が作成されます。さらに、多くの会計ソフトは税務申告の手続もサポートしています。

帳簿付けによる利点もある

帳簿付けには手間がかかるというデメリットがあるものの、これを正確に行うことで得られる利点もいくつかあります。

まず、自身の事業に関する財務状況を正確に把握できることで「経営判断をより合理的に行う」ことが可能となります。どの部分にコストがかかっているのか、どの商品やサービスが利益をもたらしているのかなど、具体的なデータに基づいた判断が行えるようになるのです。

また、帳簿付けを行うことで、銀行からの資金調達などの際に、信用を得やすくなります。正確な財務諸表は、事業の健全性や将来性を外部に示すツールとして機能し、アピールもしやすくなります。

青色申告と白色申告は結局どっちがお得なのか

青色申告をした場合に受けることのできるメリットは非常に魅力的なものですが、帳簿付けが面倒であるというデメリットもあります。

しかし、そのデメリットも会計ソフトを利用することで軽減できますし、少ないデメリットで多くの特典を受けられる青色申告のほうが白色申告よりお得と言うことができるでしょう。

所得がいくらでも青色申告のメリットは大きい

「所得が少ないから受けられるメリットが少ないのでは?」「所得がいくらからメリットが大きくなるのか」

こういった疑問もあるかと思います。結論を言えば、所得がいくらでも青色申告のメリットは大きいです。

事業を始めたばかりで所得が少ない、もしくは赤字の場合でも、「純損失の繰越控除」ができることが大きなメリットとして機能します。将来利益が出たときでも節税効果が得られますし、上述の通り「青色申告特別控除」や「青色事業専従者給与」といったメリットもあります。