個人事業主が確定申告をしなくていいケース|具体例とともに解説
個人事業主として活動している方の多くには確定申告の義務が課されています。しかし売上が極端に小さかったり経費や控除額の割合が大きかったりして所得が一定の基準を下回る方については、確定申告が不要となるケースもあります。
当記事ではこの「確定申告が不要となるケース」について、具体例を交えながら解説しています。
※当記事の内容は2024年執筆時点のルールに基づく。所得税のルールは改正されることも珍しくないため要注意。
個人事業主・フリーランスは48万円が基準
確定申告の必要性を判断するには所得税法をチェックするのが一番ですが、その規定を簡単に整理すると、次のようにまとめられます。
確定申告をしなければならないのは・・・
「所得の合計額が、基礎控除やその他所得控除の合計額を超えており、かつ、算出された税額が配当控除額を超えているとき」
言い換えると、次のいずれかのケースで確定申告が不要といえます。
- 所得の合計額が基礎控除額やその他所得控除の合計額を超えていないケース
- 算出された税額が配当控除額を超えていないケース
※ABを満たさない場合でも、控除しきれなかった源泉徴収税額等があるとき、確定申告の義務は課されない。ただし還付を受けるには確定申告を行う必要がある。
所得は売上から売上原価や経費などを差し引いた後の金額のことで、ここからさらに基礎控除などの所得控除を適用し、課税所得が明らかとなります。
所得控除にもいろいろあり適用できる人・できない人、控除額などにも違いがあるのですが、基礎控除に関しては次のように金額が定まりますので、多くの場合は48万円の控除が適用されます。
合計所得額 | 基礎控除額 |
~2,400万円 | 48万円 |
2,400万円超~2,450万円 | 32万円 |
2,450万円超~2,500万円 | 16万円 |
2,500万円超 | 適用なし |
少なくとも基礎控除を適用して課税所得が0円になるのなら確定申告は不要ですので、基礎控除額である「48万円」はわかりやすい指標となるのです。
売上48万円以下の場合
所得は、売上から売上原価(仕入金額等のこと)と経費(租税公課、水道光熱費、旅費交通費、通信費、消耗品費、減価償却費、地代家賃、雑費など)などを差し引いて導き出します。
算出された所得に対して基礎控除などの所得控除を適用するところ、もし、売上が年間で48万円以内に収まるのであれば、その時点で確定申告の義務はないと判断できます。
経費等が0円でも、基礎控除の適用により課税所得が0円になるためです。
ケース1 | ケース2 | |
①売上 | 40万円 | 40万円 |
②経費等 | 20万円 | 0円 |
所得 | ①-②=20万円 | ①-②=40万円 |
申告 | 不要 | 不要 |
売上48万円超の場合
売上が48万円を超えるときは、売上原価や経費などを正しく把握して所得を計算しないといけません。次のように売上から差し引く金額によって結果が変わってしまうためです。
ケース1 | ケース2 | |
①売上 | 300万円 | 300万円 |
②経費等 | 260万円 | 130万円 |
所得 | ①-②=40万円 | ①-②=170万円 |
申告 | 不要 | 必要※ |
※社会保険料控除や生命保険料控除などを適用して課税所得が0円になるのなら確定申告は不要。
さらに、冒頭でも紹介したように、算出された税額が配当控除額を超えているケースでなければ確定申告を行う必要はありません。そのため課税所得のある方でも、配当控除が適用可能であれば、まだ確定申告が不要となる可能性は残ります。
※配当控除:国内の法人からの配当所得(申告分離課税を選択したものを除く)があるとき、一定額まで所得税の額から差し引くことができる税額控除のこと。
青色申告特別控除の適用を受ける場合
青色申告を選択している事業者であれば、経費等に続き「青色申告特別控除」の適用によって所得を小さくすることができます。
その結果所得が48万円以下となれば、基礎控除の適用により納税額は0円であるとすぐにわかります。
ただし、確定申告を行わない場合は「10万円の特別控除」しか適用を受けられません。
「55万円の特別控除」または「65万円の特別控除」を受けられるのは、期限内に確定申告を行っている方であって次の要件を満たす方のみです。
- 確定申告書に特別控除を受けようとする旨を記載している
- 確定申告書に特別控除を受ける金額の計算に関する事項を記載している
- 貸借対照表や損益計算書、事業所得の金額の計算に関する明細書等を確定申告書に添付している
※この要件に加えて、仕訳帳・総勘定元帳に関して所定の要件を満たす電子帳簿保存を行っている場合は控除額が最高65万円となる。
つまり、確定申告の必要性について次のように整理することができます。
ケース1 | ケース2 | ケース3 | |
①売上 | 300万円 | 345万円 | 355万円 |
②経費等 | 250万円 | 250万円 | 250万円 |
③特別控除 | 10万円 | 55万円 | 65万円 |
所得 | ①-②-③=40万円 | ①-②-③=40万円 | ①-②-③=40万円 |
申告 | 不要 | 必要 | 必要 |
家族従業員がいる場合
従業員がいる場合人件費を経費として差し引くことができますが、その従業員が配偶者であるなど家計を一緒にしている家族であるとき、無条件には経費計上できませんので要注意です。
このときの取り扱いについては「青色申告と白色申告の選択」による違いがあります。
青色申告の場合 | 白色申告の場合 |
・「青色事業専従者給与」として全額を必要経費にできる・税務署へ「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要・届出書に記載の金額の範囲内であって、相当な金額でなければいけない | ・「白色事業専従者控除」として一定額まで必要経費とみなせる・控除額は最大でも86万円(配偶者以外なら1人あたり50万円)・確定申告書への記載が必要 |
そこで、売上から経費等を差し引いた金額が48万円を超えていたとしても、専従者給与を差し引いて48万円以下にできるのなら、確定申告は不要となります。
一方白色申告事業者の場合は、専従者控除によって所得が48万円以下になったとしても、常に確定申告は必要です。
青色申告 | 白色申告 | |
①売上 | 300万円 | 300万円 |
②経費等 | 150万円 | 220万円 |
③専従者への給与 | 120万円 | 50万円 |
所得 | ①-②-③=30万円 | ①-②-③=30万円 |
申告 | 不要 | 必要 |
※青色申告の場合はさらに特別控除の分も差し引くことができる。ただし55万円・65万円の控除を受けるには申告が必要。
赤字の場合
赤字のとき、確定申告の義務はありません。
しかしながら、「任意であるが申告は行った方が良い」といえます。
青色申告事業者が確定申告をしておけば、ある年度における純損失を繰り越すことや、前年分に繰り戻すこともできるためです。これにより別の年度における税負担を軽減することが可能となります。
※白色申告事業者は基本的に赤字の繰り越し・繰り戻しはできないが、災害などによる固定資産の損失などについては例外的に繰り越しが認められる。
青色申告 | 白色申告 | |
①売上 | 300万円 | 300万円 |
②経費等 | 450万円 | 450万円 |
所得 | △150万円 | △150万円 |
申告 | 不要 ※確定申告をすれば赤字の繰越・繰戻が可能 | 不要 ※確定申告をしても原則繰越・繰戻は不可 |
副業で事業所得があるときは20万円が基準
通常、給与所得者は勤め先にて年末調整が行われ、所得税の精算がなされています。そのため改めて確定申告を行う必要はありません。
しかし、会社員として給与を受けつつ副業で個人事業主・フリーランスとしての活動をしている方については、確定申告が必要になる可能性が高いです。
このときの必要性については「事業所得等(給与所得や退職所得以外の所得)の合計額が20万円超か」に着目して判断しましょう。
事業所得20万円以下になる場合
「副業から得た事業所得が年間合計で20万円以下」になるときは、確定申告が不要です。
ケース1(副業) | ケース2(副業) | |
①売上 | 100万円 | 100万円 |
②経費等 | 85万円 | 60万円 |
事業所得 | ①-②=15万円 | ①-②=40万円 |
申告 | 不要 | 必要 |
基礎控除などの所得控除は会社からの給与所得と事業所得等を合算した後に適用しますので、事業所得が48万円以内に収まるかどうかでは判断しません。この点には十分注意してください。
事業所得と複数の給与所得がある場合
給与を2ヶ所から受けている場合、「年末調整された主たる給与」とは別の所得を合計し、その合計額が20万円以下になるかどうかをチェックしましょう。
例えばA社から給与を受け取っている方が、B社でもバイトとして給与を受け取っており、さらにフリーランスとしても事業所得が発生しているとします。A社で年末調整を行っていても、B社からの給与と事業所得の合計額が20万円を超えているのなら、確定申告はしないといけません。
ケース1(副業) | ケース2(副業) | |
(主たる給与)A社からの給与 | 300万円 | 300万円 |
①B社からの給与 | 10万円 | 10万円 |
②事業所得 | 5万円 | 20万円 |
主たる給与以外の合計額 | ①+②=15万円 | ①+②=30万円 |
申告 | 不要 | 必要 |
義務がなくても確定申告をした方がいいケース
確定申告の義務がなくても、源泉徴収された税金や予定納税した税金が納め過ぎになっている場合、還付を受けるための申告を行いましょう。義務ではありませんが、申告を行うことで税金が戻ってきますのでできればやっておきたいところです。
例えば次のようなケースで納め過ぎになっている可能性が高いです。
- 原稿料などを受け取っており源泉徴収されているが所得の合計額が少ない
- 会社員であったが年の途中で退職してその後就職せず年末調整を受けていない
- 予定納税をしていたが確定申告の必要がなくなった
またこれとは別に、純損失や雑損失などの繰り越し控除、純損失の繰り戻しによる還付を受けられるケースもあります。例えば次のようなケースです。
- 所得の合計額が赤字になっている
- 雑損失の金額が所得の合計額を超えている
- 前3年間に生じた純損失や雑損失の控除不足額が所得の合計額を超えている
こちらも任意ではありますが、今後の税負担に響いてくるため確定申告をしておいた方が良いでしょう。
なお、所得税の申告を行う義務がない場合でも、住民税に関する手続をしないといけない場面がありますので注意してください。「20万円以下の事業所得しかないのなら申告不要」としているのは所得税のルールであって、税金全般に共通するルールではないのです。
日々の記帳が大切
確定申告の必要性を評価するうえでは、日々の記帳が大きな意味を持ちます。
記帳をしっかりやっておかないと細かな金額が把握できず「申告をしないといけないのか、それともする必要はないのか」の判断が難しいのです。
個人事業主、フリーランスとして活動を続けていくのであれば毎年確定申告について考えなくてはなりませんし、経理業務・税務についても怠ることなく取り組むようにしてください。