個人事業主が加入できる社会保険の種類! 開業時に知っておくべき基礎知識
いざ個人事業主として独立しようと思い、会社を退職する際には、今まで使用していた健康保険証の返却が求められます。そのとき、独立してからの自分の健康保険はどうなるか心配になる方もいるでしょう。
この記事では個人事業主でも加入できる社会保険について、その種類や概要を具体例と一緒に解説しています。「個人事業主でも社会保険に加入することができるのか?」そんな疑問を持っている方は、ぜひ自分の立場に当てはめながら考えてみましょう。
個人事業主も社会保険に加入できる!
個人事業主でも社会保険に加入することができます。しかし、「社会保険」という名称の個別の保険はありません。医療保険や年金保険などの公的な保険の総称として、社会保険という言葉が使われることもあり、実際は複数の種類の保険を指しています。
では、個人事業主が加入できる社会保険の種類や特徴について、ひとつずつ確認しましょう。
個人事業主が入れる社会保険
はじめに、個人事業主が加入することができる社会保険について解説します。
日本は国民皆保険と言って、国民全員が何かしらの医療保険に加入することになっているため、何かしらの健康保険に必ず加入しなければなりません。
そのため、加入しなければならない保険であるとも言えますが、それにはいくつか種類や選択肢がありますので、しっかりと確認しましょう。
健康保険
健康保険とは、怪我や病気が原因で病院を受診する際に、医療サービスが受けられる保険のことです。
「病院窓口では自己負担額は3割」というのを聞いたことがある方は多いと思います。これは、健康保険に加入しているために受けられるサービスです。
加入できる健康保険は、その人の働き方や配偶者の有無、年齢によって決まっており、個人事業主が加入できる健康保険にはいくつか種類があります。
保険者 | 扶養の有無 | 保険料負担額 | 手続先 | 諸注意 | |
国民健康保険 | 居住の市町村 | × | 自治体により異なる | 居住の市町村 | 保険料は全額自己負担 |
国民健康保険組合 | 各健康保険組合 | × | 組合により異なる | 各国民健康保険組合 | 組合により加入条件あり |
被扶養者 | 配偶者などの健康保険の被保険者と同じ保険者 | × | 負担なし | 配偶者などの被保険者の勤め先 | 収入の要件あり |
健康保険の任意継続 | 過去に自身が加入していた健康保険 | 〇 | 保険先により異なる | 以前加入していた健康保険 | 勤務時と違い保険料は全額自己負担加入可能期間は最大2年間 |
多くの場合、個人事業主は国民健康保険に加入することになるでしょう。保険料は加入する本人の居住地によって算出方法が異なりますので、自治体によって個別に確認する必要があります。
もし個人事業主本人の配偶者などが、勤め先で健康保険の被保険者になっている場合、その被保険者に扶養されている扶養者になれば保険料の負担はありません。しかし、扶養されている人には収入に上限があるため、気をつけましょう。
その他の方法として、要件を満たせば国民健康保険組合に加入する方法や、勤め先で加入していた健康保険への任意継続などがありますが、いずれもいくつかの条件があります。
加入を検討する場合は、それぞれの保険者へ条件を確認しましょう。
会社員などが入る健康保険と国民健康保険が異なる点は大きく2つです。
ひとつめは、家族を扶養することができません(任意継続被保険者を除く)。
そのため、元々会社員で扶養家族がいた場合は、国民健康保険に切り替えることで、世帯人数分の保険料を支払うことになりますので、負担額が増える可能性もあるでしょう。
ふたつめは、保険料が全額自己負担になります。勤めていたときに給料から引かれている健康保険料は、実は会社と折半した金額です。そのため、負担額の増加や想定していたよりも負担額が高い金額である可能性があります。
介護保険
介護保険とは、介護や介護予防のためにサービスを利用したり、自宅を改修したりする際にその費用を一部補助してくれる保険のことです。40歳になった月から自動的に加入することになるため、特別な手続きは必要ありません。40歳以降に健康保険料を支払う際、支払い金額が増えていることで気がつくこともあるでしょう。
保険料は健康保険と一緒に支払いますが、保険料率や保険料負担額は、加入する健康保険によって異なります。気になる場合は、事前に健康保険の保険者でどのような計算になっているのか確認しておくとよいでしょう。また、健康保険と同様に保険料は全額自己負担となります。
年金保険
日本の年金保険は、20歳になった日本居住者は全員が強制加入になる保険です。外国人の方であっても、日本に居住していれば日本の年金保険に加入することになります。
世間一般では、年金は歳を取ってから貰う老齢年金のイメージが強いでしょう。
しかし、不慮の事故などで障害が残ってしまったときに困難になった日常生活を支えるための障害年金や、一家の生計を支えていた人が亡くなった際に、その遺族の生活を支えるための遺族年金なども、同じ年金制度から給付されます。
年金の被保険者は次の3種類です。
・第1号被保険者 … 自営業、学生、フリーター、無職など
・第2号被保険者 … 会社員や公務員
・第3号被保険者 … 第2号被保険者に扶養されているもの
多くの個人事業主は第1号被保険者となります。保険料は全国一律で決まっており、令和5年度は月額 16,520 円です。支払う保険料は一定ですが、貰える給付も金額が決まっています。(加入や支払い状況により増減あり)
個人事業主でも条件を満たせば第3号被保険者となることも可能で、その場合は保険料の負担はありません。しかし、条件のひとつに収入の要件があるため、該当するかどうかを確認しておくといいでしょう。
第2号被保険者の加入する厚生年金保険との大きな違いは、働いて得る給料によって支払う保険料が決まるところです。当然、給料が高ければ高いほど支払う保険料も増えますが、受給の際に貰うことのできる金額は、第1号被保険者が貰うことのできる国民年金に対して上乗せ分となります。加えて、支払った保険料が高いほど受給額も増える仕組みです(上限あり)。
また、第2号被保険者の保険料も自己負担額は半額で、残りを会社が半分負担してくれます。
国民年金への加入の手続き先は、居住地の管轄の年金事務所です。
第3号被保険者になる場合は、配偶者などの勤め先を経由して手続きをして貰いますので、忘れないように手続きの依頼をしましょう。
個人事業主が入れない社会保険
ここまで個人事業主でも入れる社会保険を解説しましたが、反対に個人事業主だと入れない社会保険もあります。しっかりと確認しましょう。
雇用保険
雇用保険とは、失業した際に失業手当が貰えたり、育児や介護が原因による休業中の賃金などを保障してくれたりする保険です。
雇用保険の対象となる労働者を1人でも雇う場合は、たとえ法人ではない個人事業主でも雇用保険の適用事業主となり、保険料を支払う必要があります。
しかし、雇用保険の適用事業所として雇用保険料を支払っていたとしても、雇用主である個人事業主本人が、雇用保険の被保険者として保険に加入することはできません。
これは、事業などに雇用されている労働者を保護することが目的の保険であるため、雇い主側である事業主は加入することができない保険です。
労災保険
労災保険とは、仕事が原因で怪我をしたときや病気になってしまったときに、病院で診察を受けた際にかかった医療費や、仕事を休んでしまった期間の賃金の保障をしてくれる保険のことです。
こちらも雇用保険同様、事業などに雇われている労働者を守るための法律であるため、個人事業主本人は加入することができません。
しかし、労働者の加入する労災保険と同じような保険給付を受けることができる、特別加入という方法があります。
これは、事業主と言えど労働者と同様の仕事をしているような中小企業主や建設業の1人親方を、労災事故から保護するための保険です。
特別加入は、単独で加入することはできないので、必ず労働保険事務組合を通して加入することになります。保険料負担額は複数ランクがあり、加入者自身で保険料を選択するような方式です。
社会保険への加入について事業主が知っておくべきこと
社会保険加入にあたってはいくつか諸注意があります。会社を退職したり、事業を開始することに伴って、加入する社会保険も変わるので諸注意については事前に確認しておくことが望ましいでしょう。
自分の社会保険料は経費ではなく控除の対象
個人事業主が支払った国民健康保険などの健康保険料や年金保険料は、経費として処理することはできません。
しかし、確定申告の際は社会保険料控除の対象となります。
もし労働者を雇い、同様の社会保険料を支払っているときは、その労働者の分の社会保険料は「法定福利費」などの経費として処理することが可能です。
個人事業主の本人の支払った分と、従業員の分として支払っている社会保険料は扱いが異なることを理解し、適切に処理ができるようになりましょう。
社会保険未加入のリスク
日本居住者は、公的な社会保険は一部の例外を除いて必ず加入することとなります。当然、加入の手続きを怠れば、遡って保険料が徴収されることもあり、督促を受けたり延滞金を支払うことにもなるでしょう。
保険の手続きや保険料の支払を怠ることで、本来受けられるはずの給付が受けられなくなります。
また、公的年金制度では保険が受けられたとしても、保険料の未納期間があることで受給額が減ってしまう保険です。加えて、障害年金や遺族年金は受給事案(障害の原因となるものについて初めて病院を受診した日や死亡日)が起こる前日までの保険料納付の状況が受給できるかどうかのポイントとなります。
いざ事故を起こし、「障害が残りそうだから障害年金受給のために急いで保険料を納付しよう」と思って急いで保険料を納付しに行ったとしても、要件を満たせない可能性が高いです。
未納のリスクについてもしっかりと確認しておきましょう。
従業員を1人でも雇用すると労働保険加入が義務
従業員を雇う際は、例え法人ではない個人事業主であっても、労災保険・雇用保険(2つを合わせて労働保険と呼ばれます)への加入が必要となります。
一部労働者の立場や働き方によっては加入の必要がない場合もありますが、ほとんどの場合が加入することになるので、労働者を1人でも雇った場合は手続きが必要です。
雇用する労働者に保険加入の必要があるのか不明の場合は、雇用保険であればハローワーク、労災保険であれば労基署へ問い合わせるのがよいでしょう。専門家である社労士にまとめて相談することもできます。
民間の保険に任意で加入することは可能
上記で説明した社会保険は、労働保険(雇用・労災)以外は、日本居住者であれば必ず加入しなければならない保険です。
しかし、中には公的な社会保険の補償だけでは足りない、または心配だと思う人もいるかもしれません。
その場合は、公的な社会保険に上乗せという形で民間の保険に加入するのも良いでしょう。
例えば、健康保険であれば民間の医療保険があり、加入することで入院や通院の際の保障が充実します。
国民年金には付加年金という制度があり、月額の保険料にプラス400円加算して納付すると、将来受け取れる年金に200円×付加年金保険料納付額が加算されるのです。
仮に、10年(120ヶ月)付加年金を納めたら、納付額は400×120ヶ月=48,000となります。
将来老齢年金を受け取る際は、200円×240ヶ月=48,000で、2年間で元が取れる計算です。
老齢年金は受給者が亡くなるまで給付が続くので、長生きすればするほど得になります。
その他、iDeCoのような確定拠出年金などの制度もあります。どちらも確定申告の際は、社会保険料控除や所得控除の対象となりますので、節税対策として加入するのも良いでしょう。
また、事業運営をしていればどんなことで損害賠償を請求されるかわかりません。そのようなトラブルを保障する公的な社会保険はないので、業務上のトラブルに備えた個別の保険への加入を検討することも必要です。
個人事業主が負担する社会保険料の相場
では、ここで社会保険加入について具体例を見てみましょう。
国民健康保険はいずれも東京都大田区を仮定しており、区のHP上での試算を参考にしています。
(https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/kokunen/kokuho/simulation/keisan_kokuho_r05.html)
あくまでも試算であり、諸般の事情により異なるケースがありますので、お気を付けください。
ケース1
個人事業主 45歳男性 年収600万円 妻(無職)と同居
※こちらは世帯での保険料を示しています
種類 | 月額保険料 | 年額保険料 | |
健康保険 | 国民健康保険 | ¥67,442 | ¥809,304 |
介護保険 | 国民健康保険にて自動加入 | ||
年金 | 夫婦ともに第1号被保険者 | ¥33,040 | ¥396,480 |
合計 | ¥100,482 | ¥1,205,784 |
ケース2
個人事業主 25歳男性 年収300万 同居家族なし
種類 | 月額保険料 | 年額保険料 | |
健康保険 | 国民健康保険 | ¥25,547 | ¥306,564 |
介護保険 | なし | ¥0 | ¥0 |
年金 | 第1号被保険者 | ¥16,520 | ¥198,240 |
合計 | ¥42,067 | ¥504,804 |
ケース3
個人事業主 30歳 女性 年収80万円 夫(会社員)と同居
こちらのケースは配偶者の扶養に入るケースを紹介していますが、以下の点についてご留意ください。
・所得税法上の配偶者控除は別途規定あり
・配偶者が加入する健康保険により別途規定あり(ex事業主として開業している者は扶養にできないなど)
・収入やその他諸条件あり
もし扶養に入ることを考えるのであれば、必ず事前に配偶者の勤め先に扶養の条件を確認しましょう。
種類 | 月額保険料 | 年額保険料 | |
健康保険 | 配偶者の健康保険の扶養 | ¥0 | ¥0 |
介護保険 | なし | ¥0 | ¥0 |
年金 | 第3号被保険者 | ¥0 | ¥0 |
合計 | ¥0 | ¥0 |
まとめ
社会保険は加入が強制されているものもありますが、その人の状況によっては加入する保険に選択肢があるのです。しかし、知識が無ければ保険の名称だけでは同じ内容の保険なのか、それとも違う内容の保険なのかの区別をつけることが難しく、選択肢から選ぶこと自体が難しくなります。
ですので、個々の自分の状況に応じた保険を選べるように、保険の種類や目的などの知識をつけましょう。