個人事業主がする国民年金の手続き|退職後に必要なものや加入・切替の方法を解説

独立のために会社を退職するとき、人事担当者などから「年金の切替の手続きは自分でやってください」と告げられることがあります。会社員の年金手続きは入社時からすべて会社が行うため、意識をしたことがないという人もいるでしょう。

この記事では、個人事業主がしなければならない年金の手続きについて詳しく説明しています。手続きに不安を感じる方は一度確認しておきましょう。

退職後も国民年金への加入が必要

日本に住む20歳以上60歳未満の人は、たとえ外国人であっても国民年金に加入しないといけません。加入は強制ですので「年金はいらないから国民年金にも加入しない」という選択を取ることもできませんので注意しましょう。

国民年金は3つの区分に分かれます。

  • 第1号被保険者 … 日本に住む20歳以上60歳未満で、第2号、第3号のどちらにも属さない人が対象。主に自営業、学生、無職などの人たち。
  • 第2号被保険者 … 会社員や公務員などが対象で「厚生年金」とも呼ばれる。
  • 第3号被保険者 … 第2号被保険者に扶養されている人が対象。年収の要件がある。

このように、国民年金のどの種別に属するかは本人の職業などによって決まるので、こちらも任意で選べません。

個人事業主は原則第1号被保険者に該当しますが、扶養の条件を満たせば第3号被保険者となることも可能です。

手続きについては、会社を辞めて別の会社へと転職する場合、転職先の会社が年金の手続きを行います。加入者自身が自分で何か手続きをする必要はありません。

しかし自営業として独立する場合、つまり第1号被保険者に切り替える場合は、退職日の翌日から14日以内に自分自身で手続きをします。

なお、国民年金の保険料の支払、加入は月単位です。退職日のタイミングにより月の加入状況が異なりますので注意しましょう。

例1)3月末で会社を退職する場合

→ 第2号の資格喪失は4月1日となり、4月から国民年金の第1号被保険者として保険料を支払います。

例2)月初はA社の会社員として厚生年金に加入。同月内で退職をして国民年金の第1号被保険者に一度切り替えたあと、月を跨がないうちにB社へ再就職をした場合

→ 途中で種別が2〜3転しても、月末の状況によって種別、保険料は決定されます。今の例は、月末の時点ではB社の厚生年金に加入することになりますので、この場合の種別は「第2号被保険者」です。

国民年金に加入しないとどうなる?

年金の加入手続きを怠ったり、支払を放置してしまうと督促状や確認書類が届くことがあります。

それだけではなく、保険料を未納のままでいると、老齢、障害、死亡などの年金を受け取ることができる事案が発生した際に年金受給額が低くなったり、最悪のケースでは「もらえない」なんてことも十分あり得る事態です。自分自身や家族を守るセーフティネットですので、手続きや納付を怠ることは大きなデメリットになります。

開業直後では資金が足りずに、保険料の支払いをつい後回しにしたくなるかもしれません。そんなときは、国民年金の「免除」や「納付猶予」の制度を活用しましょう。

免除や納付猶予の手続きをすることで、未納や滞納ではなく、きちんと「納付月」としてカウントしてもらえます。

※免除額に応じた受給額の減額などはある。

また、支払った保険料は全額、所得から社会保険料控除とすることができるので、節税効果も得られます。

個人事業主になる方がすべき国民年金の手続き

個人事業主として独立した際の、実際の年金の切替手続きについて確認していきましょう。

加入手続きで必要なものと入手場所

会社員(第2号)から個人事業主(第1号)に切り替えるときは次のものが必要です。

  • 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど)
  • 基礎年金番号のわかるもの(年金手帳、基礎年金番号通知書)
  • 退職日のわかるもの(資格喪失証明書、退職証明書、離職票など)

   ⇒退職する会社、または会社を通じて加入していた健康保険組合などが発行します。

加入手続きの窓口・方法

手続きは加入者が住む市町村の役所で行います。手続きの方法は自治体によって異なる可能性がありますが、多くの場合は国民健康保険の手続きと同時に行うことになるでしょう。

配偶者がいる場合の手続き

配偶者がいる場合は、扶養について2つのパターンが想定されます。それぞれ手続き先が異なりますので、確認しましょう。

配偶者を扶養にするケース配偶者は、個人事業主として独立する本人同様に、国民年金の第1号被保険者となる。「資格喪失証明書」を入手し、居住地の市町村で第3号から第1号への切り替えの手続きが必要。
配偶者の扶養に入るケース第2号の配偶者の職場を通じて手続きをする。配偶者が加入している健康保険や、職場によって手続きの方法が異なるため、必要書類などは要確認。退職や資格喪失に関する証明書が必要になることが多いため事前に入手しておくと良い。

その他の年金制度を利用する手続き

第1号被保険者が将来受け取れる年金は「基礎年金」のみです。これに対して会社員である第2号被保険者は厚生年金の上乗せがあるので、その分の加算があります。

そこで第1号被保険者は、将来への備えについて自分自身でよく考えなくてはなりません。国民年金に上乗せできる任意加入の年金もいくつかありますので、手続きの方法を確認しておきましょう。

付加年金

毎月の国民年金保険料に400円を加算して支払うことで、将来の年金受給額に付加年金を加算することができます。

「200円×納付月数分」の受給額が加算される仕組みで、老齢年金を受給してから2年間で付加年金分の保険料は元がとれる計算です。

手続きは、居住地を管轄している市区町村の役場、あるいは年金事務所で申出書を記入・提出をします。

国民年金基金

国民年金基金とは、国民年金とセットで第1号被保険者の老後の収入を支えるための年金制度です。付加年金との併用はできません。「全国国民年金基金」の加入要項に従い、手続きを行います。

iDeCo(個人型確定拠出年金)

iDeCoとは、将来の年金を自分で拠出した掛金で資産運用をしながら積み立てるというものです。

iDeCo商品を取り扱う金融機関に届出をすることで加入ができます。金融機関ごとに取扱商品、サービス内容などが異なるため、加入を検討する場合はそれぞれを比較検討。自分に合ったものを選ぶのがよいでしょう。

小規模企業共済

小規模企業共済とは、小規模企業の経営者や個人事業主が加入できるものです。

事業を廃止するときにも備えることができるのは、他にはないメリットと言えるでしょう。独立行政法人の中小企業基盤整備機構(中小機構)と提携している商工会議所などの団体や、銀行などの代理店で手続きができます。

将来受け取る金額も考えて年金制度の利用を検討しよう

国民年金は、年をとって働くことができなくなったときや、死亡、障害などの有事の際に生活の基盤を支える保障となります。

また、個人事業主よりも厚生年金の被保険者のほうが社会保障が手厚いことも事実です。個人事業主は自分自身の年金やいざというときの保障について、よく考えておく必要があるでしょう。

任意の年金に加入すればいざというときの備えが手厚くなるばかりではなく、社会保険料控除の節税効果も期待できますので、利用を検討してみる価値は十分にあるでしょう。