ハラスメント防止のために望ましい取り組み|個人事業主向けに対策例を紹介
ハラスメント防止措置(義務)に併せて、任意ではあるものの取り組むことが望ましい対応として掲げられている事項があります。
様々な仕事をこなす個人事業主にとっては、既に手一杯だと感じるかもしれませんが、法律の義務で行う措置と同時にできるものばかりです。前向きに取り組めば、よりハラスメント防止の効果が期待できます。
個人事業主向けに取り組み内容のポイントと具体例を紹介していますので、ぜひご一読ください。
望ましい取組①各種ハラスメントを一元管理する体制
「様々なハラスメントを一元管理する体制の構築」に取り組みましょう。
職場におけるハラスメントには、パワハラ、セクハラ、マタハラなど、様々な種類があります。それぞれの定義、ハラスメントを判断するポイントは異なりますが、どれも「やってはいけない」と禁止されている点は同じです。
これらのハラスメントは独立して起こるものではなく、複合的に発生する可能性もあります。
例)パワハラと育児介護休業に関するハラスメント
ある男性従業員が育児休業の取得を申し出たとき、上司に「男なのに育児休業を取るなんておかしい」「育休を取って昇進できると思うな」と言われ、育休を取得できなかった。
→ パタニティ(父性)ハラスメントに該当
その後、パタハラ被害を受けた男性従業員が、同じ上司から「育休を希望するなんて、仕事への意欲が足りない」と人事評価を下げられたり、嫌がらせとして配置転換されたりした。
→ パワハラに該当
このように、ハラスメントは相互に関連して起こり得るので、独立したものとして扱わずに、一元管理をしましょう。
具体的な取り組み例
重要なポイントは、ハラスメント対応を行う者と従業員の双方が「特定のハラスメントだけではなく、あらゆるハラスメントに対応している」という認識です。
個人事業主の場合、ハラスメントの対応の責任者、実務をご自身で担うことが多いでしょう。まずは、個人事業主自身が各種ハラスメントへの知識、複合的に発生する危険について理解を深めてください。
もし、雇用する従業員に相談窓口対応を任せる場合は、厚生労働省が提供するリーフレットや研修資料を活用して、同様の内容について研修を実施しましょう。
義務である防止措置のひとつに「事業主のパワハラ防止に対する方針の明示」がありますので、従業員に周知する方法は、この措置に併せて行うことがベストです。パワハラのみではなく、あらゆるハラスメントを一元管理することを明言しましょう。
また、セクハラやマタハラの相談は、双方の性別によって相談しづらくなることがあります。そのため相談窓口を複数設置することも検討しますが、「ハラスメントごとに分ける」のではなく、あくまでも「従業員の相談のしやすさを高める」ことに留意しましょう。
望ましい取組②ハラスメントの要因を解消するコミュニケーション等
コミュニケーションの乏しい職場では、相手の体調や心情、仕事の内容や進捗等がわかりづらいため、ハラスメントが生まれやすくなります。
例えば、妊娠中の労働者は母性健康管理措置によって、ラッシュアワーを避けた通勤や就業時間内に妊婦健診を受けることが可能です。
しかし、職場内でコミュニケーションが取れていなければ、妊娠に関わる事情や体調不良、制度を利用していることを知らず「病院は会社が休みの日に行くもの」「仕事をさぼっている」といった発言に繋がりやすくなります。これは、マタハラに該当します。
従業員の事情や体調、制度利用の状況についてコミュニケーションを取ることで、ハラスメントの要因を解消することができます。
もし、ハラスメントが起こってしまっても、日ごろからコミュニケーションが取りやすい職場であれば、事態の深刻化も防ぎやすくなります。
具体的な取り組み例
個人事業主は小規模の事業場が多く、風通しの良い職場である傾向があります。このメリットを活かして、職場内のコミュニケーションを促していきましょう。
日常的な声掛けでも十分効果がありますが、定期的に従業員と1対1の面談を行ったり、ランチミーティングを行ったりすることで、コミュニケーションの頻度と密度を上げることができます。
※従業員のプライベートな時間、休憩時間を奪わないよう注意が必要。
もし、職場内のコミュニケーションが上手くいっていないと感じたら、原因を探してみましょう。同僚や部下に対して、否定的な言動をする従業員が見つかる可能性があります。このような従業員は、将来においてパワハラや、それを疑われる行動を起こす危険があるため、早急にハラスメントに関する教育や啓蒙を行うことが大切です。
望ましい取組③雇用管理の状況把握に努める
雇用管理上の問題がハラスメントの要因になっている可能性があります。
例えば妊娠・出産・育児によって思うように働けない人の分を他の従業員がそのまま引き継ぐだけだと、業務量に不満が出やすいといえます。その不満がマタハラなどのハラスメントに繋がるおそれがあります。
パワハラも同様で、仕事について十分な研修を行なわず高過ぎる目標設定を課す社風は、ハラスメントの要因になっているかもしれません。
雇用管理上の問題を定期的に見直し、ハラスメントの要因になっていないかを考えましょう。
具体的な取り組み例
雇用管理整備は、ハラスメント対策に限った視点ではなく、経営者としての業務の一環と考えます。
従業員からの意見を聞く方法はいくつかありますが、小規模な事業では、面談が最も手軽な方法です。
1年に1回でもいいので、従業員との話し合いの機会をつくるところから始めましょう。有期雇用の労働者であれば、再雇用締結時なども面談の機会になります。もちろん面談に限らず、アンケートの実施も可能です。
「人手不足が気になって育休取得ができない」という悩みがあれば、人員を増やす、業務の棚卸しをする、業務効率化の機器を導入するなど、対応を考えていきます。
望ましい取組④外注先等に対するハラスメント対策
ハラスメントが起こるのは職場内だけではありません。取引先が雇用している従業員、外注している個人事業主などのフリーランス、インターンシップの就活学生を相手にハラスメントが起こることもあります。
令和4年度には、個人事業主が社外の人間から受けたセクハラとパワハラが認定された裁判例もあります。この裁判では「事業主は社外の関係者に対しても安全配慮義務がある」と認められています。損害賠償義務が発生する可能性もありますので、社外関係者へのハラスメントも起こらないよう、意識しておきましょう。
具体的な取り組み例
社外関係者へのハラスメント対策として、特別に行うことは多くありません。
事業主が講じるべきハラスメント防止措置、相談があったときの対応は、社内の従業員と変わらずに対応します。
他の取り組みと同じく、まずは事業主自身がこのことを意識しましょう。
また従業員にも、ハラスメントをしてはいけない相手が社内にとどまらないことを伝えていきましょう。
望ましい取組⑤カスハラ等への対処
顧客からハラスメントを受けることもあります。
顧客から受ける暴力や暴言はもちろん、「SNSに書く」などの言動も威嚇行為としてカスハラに該当する可能性があります。
カスハラを放置していると、従業員が離職してしまったり、うつ病などの精神疾患を罹ったりするリスクも上がります。その結果、事業主に安全配慮義務違反が認められる危険性もありますのでカスハラについてもしっかり対応しましょう。
具体的な取り組み例
個人事業主自身が「顧客とは対等である」という意識を持ちましょう。
もちろん、顧客への丁寧な対応を否定することや、従業員の顧客への横柄な態度を許す、ということではありません。
顧客であっても、サービスの売買においては対等です。過剰な要求、一般的に見て不相応な対応をされたときに「顧客だから」という点だけで応じない姿勢が大事です。
実際にあったカスハラ事例を参考に対策事例集やマニュアルを作ったり、正当なクレームと区別する基準を設ける方法もあります。
また、可能であれば「カスハラを許さない」ことを対外的に主張するために、店舗内にポスター掲示をすることもよいでしょう。カスハラから守られているという意識を持つことで従業員も安心して働くことができます。
まとめ
パワハラ防止措置で行う義務と併せて行うことが望ましい対応について、解説しました。
上記対応を合わせることで、従業員の満足感が高い、より良い職場を作ることができるでしょう。