個人事業主が注意すべき有給休暇の仕組み 自分と従業員の適用関係の違い 

体調不良で仕事を休まざるを得ないとき、会社員であれば「有給休暇」を取得することができます。数日間仕事を休んだとしても、月の給料に大きな変動なく休みを得ることができるので「有給休暇がある」と思うと、安心して仕事に取り組めますよね。

この記事では「発注先から仕事を受託する個人事業主」と「人を雇う個人事業主」の2つの側面から、個人事業主と有給休暇の関係について解説します。

では、個人事業主に有給休暇のような制度はあるのでしょうか?

個人事業主自身に有給休暇は与えられない

まず「発注先から仕事を受託する個人事業主」に関してですが、
個人事業主が業務委託契約をしている発注元に有給休暇を申請することはできません。

美容院を例に挙げて考えてみましょう。

その美容院と雇用契約を結んでいる労働者であれば、有給休暇の取得要件を満たしていれば有給を請求することができます。しかし、美容院と業務委託契約を結んで限定的に労務を提供しているような個人事業主の場合、同じ職場で同じような仕事をしていても有給休暇を請求することはできません。

これは、有給休暇の根拠が「労働基準法」にあり、この法律は事業に雇用される労働者を守ることが目的のものだからです。

事業に雇用されていない個人事業主にはこの労働基準法は適用されないので、有給を請求することもできません。

体調やスケジュール管理はサラリーマン以上に注意が必要

個人事業主が労務を提供できない場合にあって仕事を休んだとしても、有給取得はできません。仕事を休んだ分だけ報酬に影響が及びます。

そのため、個人事業主が体調不良や突発的な事情などによって仕事に穴を開けてしまうことは、そのまま収入のマイナスに直結してしまうのです。個人事業主はサラリーマン以上に体調やスケジュールには気を遣う必要があると言えます。

個人事業主でも有給が取れる例外とは?

個人事業主という立場にあるだけで、絶対に有給が請求できないわけでもありません。個人事業主でも有給が取得できる例があります。それは、取引先企業との「雇用関係が認められる場合」です。

実際に雇用関係を結んでいる場合は当然該当しますし、たとえ雇用契約を結んでいなくても、働き方や報酬などの実態を総合的に見たときに「事業に雇用される労働者」と認められることもあります。

後者の場合、有給取得の条件を満たしていれば有給を請求することが可能です。

しかし、業務委託契約を結んでいながら「労働者であることを認めてもらうこと」は個別の事情において総合的に判断されます。実際に労働者であることを発注元に認めて欲しい場合、発注元とのトラブルになることも想定されますので、慎重に行動するようにしましょう。

従業員を雇う場合は有給取得義務に従う

次に、「発注先から仕事を受託する個人事業主」としてではなく、「人を雇う個人事業主」としての立場から有給について考えてみましょう。個人事業主として労働者を雇っている場合はどうなるのでしょうか?

結論から言うと、個人事業主であっても労働者を雇っている場合は有給休暇を与える義務があります。

また、平成31年4月1日に施行された働き方改革関連法のひとつとして、労働者を雇う事業は「有給が10日以上付与される労働者に対し、年5日の有給休暇を取得させること」が義務付けられました。

知らないうちに事業主として守るべき法律を順守できていない場合もあるので、しっかりと確認しましょう。

有給休暇取得義務が生じる要件

有給休暇は事業主に「与える与えない」あるいは「どれぐらい」を決める決定権はありません。法律で取得の要件と日数が決められており、要件を満たせば自然に有給の請求権が労働者に発生します。

有給休暇の取得要件は、①該当労働者が雇われた日(基準日といいます)から6ヶ月以上経過していることと、②その間の出勤率が8割以上であること、の大きく2点です。

与えるべき有給日数は次の表のように決められています。この表に当てはめて、年10日以上の有給を付与する労働者を雇っている場合は、その労働者に年5日間の年休を取得させる義務が生じますので、該当労働者に当てはめて確認しましょう。

※令和5年6月末時点

一般のフルタイム勤務の労働者の有給日数

0.5年1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年
10日11日12日14日16日18日20日

所定労働日数の少ない労働者の有給日数

所定労働日数雇入日から起算した継続勤務時間
1週1年0.5年1.5年2.5年3.5年4.5年5.5年6.5年
4日169~216日7日8日9日10日12日13日15日
3日121~168日5日6日6日8日9日10日11日
2日73~120日3日4日4日5日6日6日7日
1日48~72日1日2日2日2日3日3日3日

有給休暇取得を却下できる要件

有給休暇とは労働者の指定する日時に与えることが原則で、事業主の勝手な都合でその請求を拒むこと、取得させないことは、してはいけません。

しかし、だからといって従業員全員が同じ日に一斉に何日間も休んでしまうと、事業の正常な運営ができません。このような事業主の立場も考慮して、有給を他の時季に振り替えることができるようになっています。

この振り替えを求める権利を「時季変更権」と言います。

しかし、単に「繁忙期だから」という漠然とした理由だけで時季変更権を行使できないことに注意しましょう。「事業の正常な運営が阻まれる」という限定的な条件で、代替要員の確保の困難の度合いなどを個別的・具体的・客観的に判断されます。

つまり、事業主には労働者の請求通りに有給を与えるための努力があったか、その時季変更が「やむを得ない状況」であるのかが求められます。

従業員の有給について個人事業主が注意すべきこと

有給休暇については運用にいくつかの注意点があります。中には義務となっていることもありますので、しっかりと確認しましょう。

有給の取得に雇用形態は関係ない

有給を取得できる労働者にパート・アルバイトなどの雇用形態は関係ありません。例え学生のアルバイトであっても「雇入れ日から6ヶ月経過し、出勤率が8割以上の場合」は有給を与えなければなりません。

有給取得理由による拒否の禁止

労働者が有給を取得する理由を聞くこと自体は違法ではありませんが、有給取得の理由によって有給を与えないなどの行為は禁止です。例えば「通院は認めるけど、遊びなどの私用で取得するのはダメ」などの拒否理由は認められません。

有給が取得できる環境を整える

事業によっては労働者1人でも欠員が出ると、事業運営が厳しくなることもあるでしょう。

前述した「時季変更権」が使用者側の権利として認められていますが「労働者1人でも休まれると事業が成り立たない」という理由で労働者の有給取得を却下してしまうと、それは実質「有給休暇を与えることはできない」ことと同じになってしまいます。

実質において労働者が有給休暇を使用できなければ、違法と評価される可能性もありますので、労働者がいざというときに有給が取得できる環境を整えることも必要です。

年次有給休暇管理簿の作成

有給が付与される労働者を雇っている事業では「有給休暇管理簿」の作成と保存が義務付けられています。

決まった書式はありませんので、任意の形式で作成しても問題ありません。作成例やテンプレートなどが厚生労働省や各県の労働局のHPなどで掲載されていることもありますので、参考にしてもよいでしょう。

内容については、時季、有給の日数及び基準日(雇入日)を記入します。この書類は3年間の保存義務があり、たとえ該当労働者が退職した後でも3年間は保存しなければなりません。

有給取得者への不利益扱いの禁止

労働者が有給を取得したことを理由とする不利益扱いは禁止されています。例えば「有給を取得されたから売上が下がった」などのような理由で賃金を減額したり、賞与の算定に年休取得日を欠勤とするような扱いをしてはいけません。

有給取得は法律で定められている労働者の権利ですので、これを利用したことによる不利益な取り扱いは許されないということが理由です。

「個人事業だからうちに有給はない」は通用しない!

有給休暇について規程した労働基準法は、個人事業主であっても労働者を雇う場合は守らなければならない法律のひとつです。

有給休暇が法律上当然に与えられるということを、中小事業主やそこで働く労働者自身が知らないケースも少なくありません。「自分は個人事業主だから」「有給の制度はつくっていないから」という理由で労働者の有給請求を拒否してしまうと、法違反になるばかりではなく、貴重な従業員との信頼関係も失いかねません。

労働者を雇う事業主として必要な労務の知識は多岐に渡ります。中々自ら情報を取得しにいくことやアンテナを貼り続けることは難しいことです。「じぶんでバックオフィス」では個人事業主に必要な税・労務が学べるコンテンツが揃っていますので、「知らなかった」という理由で突然慌てることがないように、少しずつ学んでみましょう。